遊びましょう

「本当に沖田さん、子供には優しいですよね」

 先程まで鬼退治ごっこやら陰陽師ごっこと称して賑やかに戯れていた子供たちの姿は、もうない。夕暮れの橙の光を見つめる彼にそっとお茶を差し出した縁側で、何の気もなくこぼれた素直な言葉だった。

「そうかな…」
「ええ。うちの弟も近所の子供たちも皆、沖田さんに遊んで貰えるのをとても喜ん…で……」

 湯呑みを手渡す指先がかすかに触れ合った瞬間、沖田さんの双眸がしっかりと私を凝視しているのに気がついて、口ごもる。綺麗な瞳は、まっすぐにこちらを見ていた。
 君はどうなの?僕がいつもここに来るのは嬉しい?そう問い掛けられているような気がして、すこしも視線を反らせない。いつも感情のこもらない淡泊な声で喋るくせに、この人の無言の瞳にはなんて力があるんだろう。
 どうせ私の気持ちなんてお見通しなんですよね――子供だったらよかったのに。彼にあんな風に無邪気に近寄り、楽しげに遊んでもらえる子供だったら――そう思っていることは、全部つつぬけで。きっとこうやって視線だけで私を追い詰めるんだ。

「……あの、」

 何を喋れば良いのかもわからないまま口を開けば、胸がぐっと詰まって、頼りない声が出た。それでも沖田さんは黙ったまま、私から視線を反らさない。
 形よい眉の下に長い睫毛、透き通った深い色の瞳。それを見つめ続ける私の目にはじわじわと膜が張る。言葉にならない想いが込み上げる、飲み込まれる。


 ずいぶん長く続く沈黙に苦しくて苦しくて。上手く酸素も吸えなくなった頃、沖田さんはすうっと目を眇めるとやっと口を開いた。

「なに……?」
「いえ」
「そんな顔でじーっと見つめてたくせに、何でもないなんてことないよね」
「………っ」

 それは、沖田さんが私を見つめるから。そんな眼差しで私を見つめるから。

「君、そんなに僕に遊んでほしいの?」
「………」
「君もあの子供たちみたいに、仲良くしてほしいって思ってるんだろ」
「……は…い」

 くいっ、と唇の端を持ち上げた悪戯っ子のような表情で断定されれば、頷くことしか出来ないじゃないか。

「そんなに君が望むのなら、いつでも遊んであげるよ。ただし、」

 ごくり。少し温くなったお茶を嚥下する音が黄昏の縁側でやけに大きく響く。ちいさく隆起する喉仏から眼がはなせない。
 風が吹き過ぎて沖田さんの黒髪を揺らすのを眼の端で追いかけていたら、あっという間に広い胸に包まれていた。

「お医者さんごっこ限定だけどね」
「…お医者さま?」
「そう。僕が医者役……まずは軽く触診からやってみようか」

 しっかりと抱きしめたまま背中を一撫でされて「…ひ!」蛙が潰されたような情けない声が出る。恥ずかしい。

「なんてね、冗談だよ」

 もがく私を放そうともせずに、くつくつと笑い続ける沖田さんは子供たちと遊んでいるときよりもずっと楽しげだ。

「沖田さんっ!」
「だから冗談だって。そんなに怒らないでくれるかなあ」
「でも……あんまりです」
「あれ?嫌だった?」
「………!」

 一層強く抱きしめられて、身動きがとれなくなる。ふっ、と小さく笑った沖田さんの息は、後れ毛を揺らして。さっきまでじたばたもがいていたくせに、咄嗟に背中へしがみついていた。

「君ってほんとに面白いよねえ」

 耳たぶを撫でるのは、意地悪で優しくてやわらかい掠れ声。



びましょう

僕がここへ来る理由、本当に子供たちと遊ぶためだけだと思ってるの?
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