真夜中の系譜
「世の中に俺達と同じくらい愚かな人たちはどれくらいいるんだろうね」
答えなんて別にどっちでも良いよと言いたげな孝支の問いが、鼓膜に直接染み込んで来るのを味わいながら、返事の代わりに私はそっと彼の肩口に顔を埋めた。
やわらかく汗を含んだ髪の匂いを吸い込んだら愛しさが込み上げるから、首筋に軽く歯を立てる。本当は噛みついて飲み込んでしまいたいと思った。
「痛っ」
「がまんして」
「なんで」
「孝支が変なお願いした罰」
「イヤじゃなかったくせに」
うん。いやじゃなかった。
いやじゃなかったから、好きにされた。
胸もお腹も腰も、ぴったりと隙間なく密着したまま、必要以上に絡め合った脚が互いの汗で吸い付いている。
重なった身体と身体は同じ温度。いつもは白く透き通るような孝支の肌が、ほんのり朱に染まってあつい。そんなこと一つで、私は嬉しくて 泣きたくなる。
「孝支」
「ん?」
欲望の名残をのこして低く掠れた声は頭のすぐ横で耳たぶを撫でて、首筋がぞわっと泡立つ。
「愚かな人たち、ね」
「うん」
「私たち以外にも、きっといっぱいいると思うよ」
「だよね」
「いっぱいいるかもしれないけど、」
骨ばった背中に両手を回して、浮き出た肩甲骨に沿って指を這わせたら、痛いくらい腰を抱き寄せられた。
ぐい、と身体ごと全部押し付けられて、胸が潰れる。胸の内側で膨らんでいた愛おしさは弾けて身体じゅうから滲みでる。さっきよりずっと深く繋がった奥へ孝支の熱が流れ込んでくるから腰がふるえる。
「でも、ね」
「うん」
「他人のことなんて今は どうでもいい」
孝支の指が、髪を愛おしげに掬い上げる。
瞳を合わせたまま、一房 髪束にくちづけるやり方が恐ろしく艶っぽい。
「俺が居れば?」
「言わせないで」
「野暮だかんな」
「ほんと野暮。さっきは突然何を言い出すかと思ったよ」
「野暮な愚か者でごめん」
「不埒者、も付け加えといてください」
「はーい」
「乗った私も愚かだけどね」
たしかに。と言葉を続けた孝支は、腕を伸ばした距離で真上から数秒間私を見下ろしたまま静止したあと、また深く腰を沈める。
触れ合った粘膜はもう、すっかり溶けて融合して。どこからが彼でどこまでが私なのか分からない。それが嬉しい。
「もっと、って言って」
「や、だ」
「言うまでやめないよ」
「言ったら もっと、する くせに」
「あは、よくご存知で」
「これでも 孝支、の彼女 だから」
「ん」
切なげにひそめた眉も、しっとり濡れた泣きぼくろも、熱で掠れてしまった声も、ひどく厭らしいから逃げられない。こんな時の孝支は、私をまるごと捉えて釘付けにして逃がさない。もともと逃げる気なんてさらさらないのに。
だって私は、孝支のお願いなら出来る限りなんでも聞いてあげたいと思っている愚か者なのだから。
「もっと、していい?」
聞かなくても最初から答えなんて分かっている孝支の質問にはこたえずに、荒い呼吸を溢す彼の唇をふさいで。身体の奥から込み上げる疼きに、黙って身を任せた。
そうやって、
不埒な私達は 一つのものになったまま
終わりで始まりの夜をすごすのだ。
真夜中の系譜カウントダウンは繋がったままで
(彼女が出来たら繋がったまま年を越すのが夢だったんだ、なんて言われたら断れない)- - - - - - - - - -
2014.01.01
これなんてドリーム
たまにはバカップル