―――――結婚相手が決まった。
テマリにそう告げられたのは、砂の里にしては珍しい、風が穏やかに吹き付ける日だった。
あの日、私は部屋で忍具の手入れをしていた。
その途中にカンクロウの声とドアをノックする音が聞こえ、
作業を一旦中断し、ドアを開けるとカンクロウが表情を濁して立っていた。
「なんか用か?」
「我愛羅が呼んでんじゃん」
それだけ伝えると私に背を向け、逃げるように出て行った。
視線を合わせようとしない様子。
深謝したような態度。
嫌な・・・予感がした。
我愛羅がいる風影室のドアの前まで来た。
カンクロウの様子から何かあったのは明白で、嫌な予感を消し去るように一息吐いた。
ノックをすると、入れと一声。
意を決して扉を開くと、眉間に皺を寄せた我愛羅がいた。
「風影様、ご用件はなんでしょうか?」
「テマリ、今はその呼び名を使わなくていい」
我愛羅が風影と呼ぶなと制する時は、決まって自分に何かしら関係がある時だ。
その今までの中でも、きっと今回の件は相当宜しくない話なのだろう。
小さい体には不具合な大きな椅子に堂々と腰掛け、机の上に肘を乗せ、
手を顔の前で組み合わせながら、深刻な顔をする弟を見やり、そう思った。
「なんかあったのか?」
「おそらくテマリには覚悟を決めてもらわねばならん」
いつもにも増して多い眉間の皺は言葉を紡ぐ度に増える一方。
我愛羅にしては珍しく、ハッキリとしない言い回し。
それほどまでに言いづらい話なのか、なかなか口を開こうとしない。
「・・・・・実は、お前の結婚相手が決まった」
長い間の後に伝えられた言葉は、とても信じたくない話だった。
まるで他人事のように聞いてることしか出来ない。
珍しく穏やかに吹いていたはずの風が止まった、気がした。
あの時、我愛羅はどんな気持ちで自分に伝えたのだろうか―――
肌寒い風が吹き付ける、闇のような空の下にテマリはいた。
あの後、どうやって風影室を出たのか覚えていない。
どれだけ時間が経っても信じることが出来ない事実。
全然、予想していなかった訳じゃない。
どちらかというと、いつかはこうなることは考えていたし、覚悟もしていた。
それでも、その覚悟を鈍らすような思いが、今はあった。
別に相手がどう思ってようが構わない。
ただ、本当にこのまま終わってしまってもいいのか。
このまま結婚してしまっていいのか。
未練が残ったままでもいいのか。
国の幸せを願うなら一番だけど、自分は幸せになれるのか。
考えれば考えるほど切りがない。
もしあの時、嫌だと言っていたなら今頃はどうなっていたのだろうか。
どうしても嫌だと、相手に手紙を送っていたなら、
事実は変わらなくても、少しはしょうがないと思えていたかもしれない。
少しの後悔と、結婚に対する拒絶と不安。
結婚したら、もう木ノ葉にも行けなくなる。
アイツにも会えなくなる。
もしかしたら、このまま一生会えないかもしれない。
付き合っていた訳ではないけれど、砂の使者としてでもいいから、
最後に一回だけでも一緒にいたかった。
気持ちが伝わらなくてもいいから、最後に一度だけ話したかった。
「シカマル・・・」
誰もいない空に向かって、テマリの切なげな声が響いた。
「なんだよ」
「・・・っ」
テマリ以外は誰もいないはずの空の下。
急に聞こえた予想外の返事にテマリはビクリと体を震わせた。
テマリが会いたかった男が近づいてくる。
自分だけがいたはずだった。
それなのに、なぜここにいる?
木ノ葉にいるはずのアイツがなぜ・・・?
これは夢・・・・・?
それとも幻・・・・・?
「ほら、こんなとこ居たんじゃ風邪引くぞ」
「あ、ありがとう」
パサリとテマリの頭に被せられた相手のベスト。
急に現れた人物に驚愕し、混乱する頭でテマリは礼を言う。
ベストから漂ってくる落ち着く匂いに、今ここにいる人物は本物なのだとテマリは確認させられた。
「な、なんでお前がここにいるんだ?」
未だに整理がつかない頭で、言葉を躓かせながらも疑問を口にした。
「アンタんとこの風影に呼ばれたんだよ」
きっと我愛羅には気づいていたんだ。
私がシカマルを気にかけていることに。
「そうか」
「それより・・・アンタ、結婚するんだって?」
「あぁ・・・」
言いづらそうに、シカマルはソレを口にした。
結婚をするまで、シカマルには知られたくなかった。
そして、会いたいけど会いたくなかった。
会ってしまったら、きっとまたこの思いに嘘をつけなくなってしまうから。
「あのよぉ、一つアンタに言っておきたいことがあるんだ」
「・・・」
「今更、遅いって分かってるけどよ、後悔したくねぇし。アンタには知っていてほしい」
いつもと違って真剣で、その気持ちが言葉にしなくても伝わるようだ。
聞いてはいけないと本能が察してるのに、それが出来ない。
逃げてしまいたいのに、それが出来ないのは、きっと・・・
きっと・・・自分がその言葉を欲しているから。
「俺・・・テマリが好きだ」
「・・・っ」
なんともストレートな告白。
それは、とてもシカマルらしい簡素なもの。
テマリはぎゅっと拳を握った。
結婚したくない!
その気持ちがテマリの心を支配する。
それならばこのままシカマルと・・・
いけない考えだとは分かってる。
でも、でも・・・
少しでも貴方に愛された証をこの体に刻みたい。
最後でいい。
最後でいいから。
「シカマル、私もお前が好きだ・・・」
「て、まり・・・」
シカマルは驚愕した。
まさか、テマリが自分を好きだということに。
そしてテマリからの口付けに・・・
「・・んっ・・・私を・・・抱いて・・・・・?」
いつものテマリからは想像出来ないような色気が漂う。
瞳を潤わせ、唾液で濡れた唇に背筋がゾクゾクとする。
このまま、テマリの望む通りに抱いてしまいたい。
彼女の体に自分を刻み込みたい。
シカマルは欲望の渦の中に堕ちた。
肌寒い穏やかな風が吹き付ける闇の中で、二人の男女は行為に溺れた。
END.
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mims様のリクエストで、お題は『マリッジブルー』でした☆
裏要素ギリギリラインで;;
2つのお題があり、どちらを選択するか迷ったんですがこちらに致しました。
私は多分、余り触れないお題だな〜と思いまして。
でもお題通りの話になっているかは微妙なところですよね;;
マリッジブルー=結婚前の人が精神不安定になって悩む
ということで、考えついたのはこれと、もう一つ。
もう一つは、シカマルと結婚間じかになり悩むテマリさん。
やっぱり、これからのこととか、夜の営みとか、悩むところは多々あると思うんですよね。
でも、この話にしたのは、やっぱり在り来たりな話じゃなぁ・・・と思ってしまったからです。
幸せなシカテマに出来なかったのですが、こんなものでよかったらmims様どうぞ!!
mims様のみお持ち帰り自由です☆
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玲奈さんより頂きました!
2007/09/16