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深くため息をつく。ベッドに倒れこむ。
今日は月が光っている。窓辺に飾っている淡い黄色の花を打ち消すかのように、明るく鮮明な光。

本当は、ここに消えない花があった。

たった一輪、俺の隣にいた。

それはほとんど強がりで染まっていて、その中には無邪気さもあった。
その裏にあるはずの弱みは、俺には見せてくれなかった。

もう全部、過去の話だ。





「紅先生」
「まだいたの」
ここにつったているのも、いつものことだった。
「テマリは?」
その名を出されると記憶がフラッシュバックする。
「いませんよ 見ての通り」
ひねくれて言う。 気分が悪くなってくる。
「だってもうあいつ別の男と結婚してるし」
淡々と言い捨てる。
「じゃあもうあの子のことは嫌いなの?」

「好きですよ、今も。」
そう言おうとした。でも無理だ。今の俺には言えない。

「紅先生が今でもアスマ先生が好きなのと同じ感覚です」
「・・・・そう」
先生は続ける。
「もう存在しないひとを必死で求めてる自分が馬鹿に思えてくる。それでも愛したいの」
先生は笑っていた。





その時からこうやって窓辺に淡い黄色の花を置いている。
消えそうに淡い色をして、水を求めて苦しそうに俺を見る。
本当の彼女は違う。ほとんど全部真逆だ。
そんな花を見て悲しみに浸ってる自分。
俺をこんなにしたのは誰だ、と思う。

だいたい誰のせいでもないのに。
俺たちが変わってしまったのは誰のせいでもない。
ただ、これが俺らの結末だった、それだけなのに。それすら認められないなんて言えない。

でもそれまでは、
凛々しくたっている姿、
月と同じ色をした髪、
細長くて白い脚、
たくさんの荷を背負っている、小さな背中、
つめたくもあたたかくもない手、意外と器用だった指先、
少し熱を帯びた唇、
くもりひとつない翡翠色の瞳、
長いまつげ。

それを全て抱きしめていた。求めていた全てを、この手におさめていた。
それを壊すまい、という並な人間の感情と、
それとは裏腹に存在した激しい欲望が入り混じった感情は、もう彼女の前では制御できなかった。

俺は狂っていた。
まるで麻薬を求めるように。
そのせいで、俺は弱くなった。
もとは標的の鮮血を浴びるのが俺の職業だというのに、
俺はいつ自分の標的になるかも分からない女を愛した。

そのせいでまたいろいろ失くした。
おまけに最後は女を失くした。
これが最初で最後の女ならいい、と思い続けてきた女を。

そして俺は彼女を責めた。そういう奴が一番馬鹿だ、ってことは最近学んだこと。
結局誰のせいか。
その答えは自分でも見つけていない。
ただ分かったことといえば。

「もう存在しないひとを必死で求めてる自分が馬鹿に思えてくる。それでも愛したいの」

俺もその人間の類だ。

「馬鹿といわれ続けても大切な人を愛していたい」

別にいいと思う。だってすでに馬鹿なのだから。





今日も月が光っている。
消えそうに淡い黄色。青白く染まる部屋。今にも月光に突き破られそうな窓ガラス。
俺にはここは寂しすぎる。


俺がこんなにも淡い色をして消えそうなのを、彼女は分かってくれるだろうか。


消えてしまいたい。君の姿を忘れる前に。




君を愛せなくなる前に。




fin
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以上です。
悲恋で分かれた後もお互いまだ好き、っていうのは私も好きです。
かきたいことつづってたらこんなになってしまいましたが、もらってやってください。

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『melancholynista(メランコリニスタ)』のハルクサカエラさんにいただいた小説です。
「悲恋」で、別れた後にもずっとお互いのことを想っているお話をリクエスト。カエさまありがとうございました!

2007/10/27up

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