深くため息をつく。ベッドに倒れこむ。
今日は月が光っている。窓辺に飾っている淡い黄色の花を打ち消すかのように、明るく鮮明な光。
本当は、ここに消えない花があった。
たった一輪、俺の隣にいた。
それはほとんど強がりで染まっていて、その中には無邪気さもあった。
その裏にあるはずの弱みは、俺には見せてくれなかった。
もう全部、過去の話だ。
◇
「紅先生」
「まだいたの」
ここにつったているのも、いつものことだった。
「テマリは?」
その名を出されると記憶がフラッシュバックする。
「いませんよ 見ての通り」
ひねくれて言う。 気分が悪くなってくる。
「だってもうあいつ別の男と結婚してるし」
淡々と言い捨てる。
「じゃあもうあの子のことは嫌いなの?」
「好きですよ、今も。」
そう言おうとした。でも無理だ。今の俺には言えない。
「紅先生が今でもアスマ先生が好きなのと同じ感覚です」
「・・・・そう」
先生は続ける。
「もう存在しないひとを必死で求めてる自分が馬鹿に思えてくる。それでも愛したいの」
先生は笑っていた。
◇
その時からこうやって窓辺に淡い黄色の花を置いている。
消えそうに淡い色をして、水を求めて苦しそうに俺を見る。
本当の彼女は違う。ほとんど全部真逆だ。
そんな花を見て悲しみに浸ってる自分。
俺をこんなにしたのは誰だ、と思う。
だいたい誰のせいでもないのに。
俺たちが変わってしまったのは誰のせいでもない。
ただ、これが俺らの結末だった、それだけなのに。それすら認められないなんて言えない。
でもそれまでは、
凛々しくたっている姿、
月と同じ色をした髪、
細長くて白い脚、
たくさんの荷を背負っている、小さな背中、
つめたくもあたたかくもない手、意外と器用だった指先、
少し熱を帯びた唇、
くもりひとつない翡翠色の瞳、
長いまつげ。
それを全て抱きしめていた。求めていた全てを、この手におさめていた。
それを壊すまい、という並な人間の感情と、
それとは裏腹に存在した激しい欲望が入り混じった感情は、もう彼女の前では制御できなかった。
俺は狂っていた。
まるで麻薬を求めるように。
そのせいで、俺は弱くなった。
もとは標的の鮮血を浴びるのが俺の職業だというのに、
俺はいつ自分の標的になるかも分からない女を愛した。
そのせいでまたいろいろ失くした。
おまけに最後は女を失くした。
これが最初で最後の女ならいい、と思い続けてきた女を。
そして俺は彼女を責めた。そういう奴が一番馬鹿だ、ってことは最近学んだこと。
結局誰のせいか。
その答えは自分でも見つけていない。
ただ分かったことといえば。
「もう存在しないひとを必死で求めてる自分が馬鹿に思えてくる。それでも愛したいの」
俺もその人間の類だ。
「馬鹿といわれ続けても大切な人を愛していたい」
別にいいと思う。だってすでに馬鹿なのだから。
◇
今日も月が光っている。
消えそうに淡い黄色。青白く染まる部屋。今にも月光に突き破られそうな窓ガラス。
俺にはここは寂しすぎる。
俺がこんなにも淡い色をして消えそうなのを、彼女は分かってくれるだろうか。
消えてしまいたい。君の姿を忘れる前に。
君を愛せなくなる前に。
fin
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以上です。
悲恋で分かれた後もお互いまだ好き、っていうのは私も好きです。
かきたいことつづってたらこんなになってしまいましたが、もらってやってください。
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『melancholynista(メランコリニスタ)』のハルクサカエラさんにいただいた小説です。
「悲恋」で、別れた後にもずっとお互いのことを想っているお話をリクエスト。カエさまありがとうございました!
2007/10/27up