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「…さあ、どっちでいくかな。」
任務明けの昼下がり、俺はいつものように上忍詰所でアスマに将棋の相手をさせられていた。
「こっちだな。」
「んじゃここ。」
「あーっ、また俺の負けじゃねえか。」
アスマ、それ一週間前のと同じ詰み方だぜ。二度も同じ手食うなよ。
おまえ少しは上司に花持たせろよ、なんて愚痴ながら煙草を灰皿に押し付ける。
「あ、いたいたシカマルーっ。」
ノックもせずに入ってきたいのが、やけに楽しそうに話し掛けてきた。
「ちょっと、ちょっと。私ね、このあいだ面白い話聞いちゃったの。ね、聞きたい?聞きたい?」
ったく、どうせ碌なネタじゃないんだろ。
俺は次の対局の準備をしながらテキトーに答えた。
「めんどくせー、」
「そう、じゃあしょうがない、教えてあげるわ。」
「へいへい…てか、俺頼んでないっつーの。」
「おー、いの、コーヒー淹れろや。」
「あ、アスマ先生も聞きたい?それがさ…」


火の国への使いというCランクの任務を終えた私とサクラは、ナルトが自来也さまと出会ったという人気の温泉に寄ることにした。
「はん、アンタと温泉なんて余計に疲れが溜まるかもね。」
「うるさいわね、アンタが言い出したんでしょ。ごちゃごちゃ言わないでさっさと行くわよ。」
広い露天風呂はきれいに掃除が行き届いていて自来也さまが覗きに使っていたという隙間もきっちり埋められていた。そういえば長い付き合いなのにサクラとふたりで温泉に入るなんて初めてだな。
「ねぇサクラ…」
振り返ったサクラの顔は頬を少し上気させていて、私はどきっとしてしまった。サクラは最近、ホントに綺麗になったと思う。外見だけではなくて、内面からあふれてくるなにかがきらきらした輝きを増しているような、そんな気がする。
…悔しいから言わないけどね。
「なによ。」「…なんでもない。」
「もう、気持ち悪いなぁ。」
サクラはふふふっと小さく笑った。つられて私も微笑んだ。
不意に扉がガランと音を立てて開けられた。
「おい、シズネ!やっぱり温泉には酒だな。早く熱燗持って来い。」
がやがやと聞きなれた声がしたので私たちは目を合わせ、咄嗟に奥の岩場にもぐりこんだ。だって、寄り道してるのがばれたら怒られちゃうもん。
「綱手さま。もう飲みすぎですって。」
「そうよ綱手さま、温泉にはお汁粉ですよ。」
「アンコ、おまえは黙っていろ。酒だと言ってるだろう。」
「まったく火影さまともあろう方が…もっと人目を気になさって下さい。」
「なんだと…誰もいないじゃないか。」
綱手さまに、シズネさんにアンコさん、と、あの後ろ姿じゃわかんないな。金髪か、誰だろう?。つい隠れちゃったことだし、この状況で出て行くのはやっぱりまずいわよねぇ。だから私たちはそのまま黙って気配を消して、酔っ払ったお姉さま方の様子を観察することにしたの。

「…で、さっきの話の続きだが。」
お猪口片手にごきげんの綱手さまが口を開いた。
「私はやっぱり好きな人とじゃないと無理ですね。」
「私は好みのタイプだとすぐデキるわね。というよりあまり知らない男の方が…、あぁ考えただけでゾクゾクするわ。」
やだやだなんの話? これって、もしかして。
「なんら、おまえらりは、まらまらおこちゃまらな。」
綱手さまときたら、もう完全にできあがっちゃってるじゃない。目が据わってますけど。
「たかが男と寝るのに理由なんていらないだろう。」
そう言いつつお猪口の中身をぐいっと飲み干した。
そんなストレートに…私たち乙女はもうついていけません。
「ところで綱手さまは、ホントのところ自来也さまとはどうなんですか?」
「ヤったかどうかってことか?」
いやーん、やだやだ聞きたくないよぉ。
「秘密だ。」
「えええー? いいじゃないですか?」
「おまえたちにはまだ早い。だがひとつだけ教えてやろう、あいつは、」
こっちもいいけど、って湯船の中から握りこぶしを突き出した。
それからにやっと笑って舌をべろんと出した。
「こっちはもっとスゴいぞ。」
誰かの喉がごくりと鳴り私とサクラは思わず顔を見合わせた。
…アンタ顔赤いよ。
…ウルサイわね、のぼせてきただけよ。

「…、でテマリはどうなんだ?」
え、テマリさんだったんだ。あ、ほんと、でも髪をひとつに纏めてると全然印象違うわね。綱手さま、シズネさん、アンコさん、みんなそれぞれ素敵だけど、テマリさんは私とそんなに年も変わらないのにあの強さと美しさだもんね、ほんと、憧れちゃうわ。
「テマリさんの恋人も忍でしたよね。」
へぇ忍なんだ、さすがシズネさんは情報通。
うわぁ、気になるぅ、でも上忍のテマリさんの相手だったらもう上役かしら?
テマリさんはうーんと短く唸ってから、
「私はこいつの為なら死ねるってぐらい好きでないと無理かな。」
答えたその表情はとても艶やかだった。
やっぱりそうよね。うんうん、そうでなくちゃ。
あんなに強くてカッコいい弟たちがいるテマリさんが選ぶんだから、その彼ってきっとすっごく強くて、めっちゃくちゃカッコいいんだろうな。
「でも…」
でも?
「快楽だけが目的なら、なんとも思わない相手のほうがいいよ。」


「…ってわけなのよ。」
やっぱりテマリさんてオトナだわー、なんていのがほざいてる。
ったく、いのの奴、余計な話をしやがって。
「王手。」
「ぐぁ、アスマそれはちょっと。」
「おーっ、おまえがこんな単純な手に引っかかるなんてな。」
んだよ、にやにやすんなっつーの。
「俺だってそんなにいつもいつも…」「ところでシカマルよー。」
アスマが俺の顔をじーっと覗き込んで言いやがった。
「おまえはどっちなんだろうな。」


すごい勢いでシカマルが出て行っちゃったから、仕方なく私はアスマ先生の暇つぶしに付き合わされている。あ、そういえば、
「ね、アスマ先生…」
「あぁ?」
「酔っ払いの三人はともかく、しらふだったテマリさんが私とサクラに気づかないってありえなくない?」
いくら私たちが隠れてたって気づかれないわけないのよね、やっぱり。
「そーさなー。」
「なんで気づかない振りしたんだろ?」
「そりゃおまえアレだろ。」
「え、なになに?」
するとアスマ先生がおまえはかわいいなぁ、なんてコドモみたいに私の頭を撫でた。
「おまえがここまで言いに来るまでが彼女の計算のうちってことだ。」



fin
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あしまださまに頂いたシカテマ小説です。
すごく自然な流れなのに、心にちゃんと引っ掛かって残る。あしまださんの文章がやっぱり、大好きです。

2007/11/04
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