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「オレが死んだら、お前はオレを覚えていてくれるか?」

静かな時を刻む休日。珍しく休暇が重なり穏やかな幸福が包んでいたはずの自室は、ゲンマの唐突な問いにより僅かに濁りがかり、シカマルを少なからず驚かせた。

双眸を僅かに細めてソファに寝転がったままゲンマを見上げたシカマルは、意図を図りかねて静かに首を傾げた。

時々、彼にはこういう事がある。普段は饒舌な方に分類されるゲンマが、今日は終止寡黙で。何かを考えあぐねているようにも見えた。しかしこの問いは些か予想外。

いったい何を考え問うたかは知らないが、頭の中でぐるぐると悩んだ挙げ句に、出て来た言葉はひとつきり。
しかも、シカマルをおおいに混乱させる。

「どうしたんだよ、急に」

ゆっくりソファから起き上がって、正面からゲンマを覗き込んだ。

「……」

返事は……ない。
ゲンマ自身もどう説明すれば良いのか、解らないようだった。

自嘲気味な笑みが返答の変わり。けれどその瞳の奥深くには焦りが見えるような……気もしないでもない。錯覚なのかもしれないが。

「死んだら……ね」

右の掌で額を覆って「どうだろうな」と唸るシカマルを、ゲンマは苦笑し、続く言葉を待ちながらもどこか心配気に見つめている。

ゲンマが欲しい答えは、紡いで欲しい言葉は、解っているつもりだ。付き合いは短くとも深い。この人は周りが思うほど大人でもなければ強いわけでもない。

だからこそ、シカマル自身の心が伴っていなければ意味がない。それが解っているからこそ、率直に素直に。

「忘れは、しないだろうな」

「忘れようもないし」と付け足して笑ったシカマルに、ゲンマは少し満足気だった。否、どこかほっとしていたのかもしれない。

「でもなんつーかさ……、あんまりそういうのは好きじゃない」

途端に眉間を寄せるゲンマに、シカマルは肩をすくめた。さっきまでの笑みは何処へ行ったのやら、意外にもこの人は子供じみた所がある。だから一緒に居られるのかもしれないが。

「俺も、アンタも、忍で……木の葉の道具だろ?」

言い方は悪いけどさ、とまた肩をすくめる。

「…………」
「そうである限り、一緒に闘える訳だ」

「一応、多分な」と付け加えたシカマルが苦々し気に笑う。こんな現実を説いた言葉を欲しがっている訳じゃない事はわかってはいる。――それでも。

「生きてる内に側に居られりゃ、俺はそれで十分」
「…………」
「それに…忘れるとか、忘れないとか…そういうのはなんか違う気がする」
「……、違う、か?」

「違うだろ」返事ついでに息を吐いて、シカマルは天井を仰ぐ。
ソファの背もたれが、ぎし…と小さく音をたてた。

「今日、俺たちは生きてて、明日も多分生きてる…その先も一緒に生きて行きたいと思ってる」
「…………」

ゲンマは無言のまま、そっと視線を下に伏せる。ただシカマルの言葉を聞いている。
一言も、聞き漏らすまいと。聴覚を研ぎ澄ませるようにただ無地の床を視界に捕らえたまま、聞いている。

「死んだらとか、そういう約束は要らないし、出来ればしたくねえよ…俺は」

その声色は脆く、思わず視線を上げればシカマルの形のよい双眸が、悲哀の色を持ってゲンマを射抜く。
それは、息が止まるかと思うほどの衝撃だった。

「……そうだな」
「それに記憶ってのは、そう簡単に消えたりしないさ」
「それは意味合いが違ってこねえか?」
「似たようなモンだろ」

先刻までの苦笑とは違う、いつもの笑みを見せたシカマルに、ゲンマは安堵の溜め息を漏らした。あんな顔が見たくて問うた訳ではない。

「飯でも食いに行かねえ?」
「…ああ、そうするか」

「湿っぽい話は苦手なんだ」と言いながらソファを立つシカマルに苦笑して、ゲンマはまた静かに目を伏せた。


「でもアンタは……、忘れてくれよ」


絞り出すような声に、ゲンマは顔を上げる。
が、シカマルは既に上着を取りに姿を消していた。

言葉の真意も、その表情も確かめる事が出来ず、取り残された空間に澱のような沈黙が落ちた。






矛盾した願いだなんて、百も承知。





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みむちゃんハピバ!なのに暗くてすみません。

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宰華さま@Carlaから頂いたお誕生日&サイト移転祝い。


2009.07.05
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