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幸せの青い鳥・・・ねぇ。

居るならお目にかかりたいもんだね。

 

 

 



 

 

 

「あー・・・いい天気だよなぁ」
縁側でデカイ身体を伸ばしながら、ぷかりと煙を吐き出すこの男。

「こんな陽気に、将棋、てのもなァ」
「うるせー」

んな事言うんだったら、アンタが甲斐性見せろよ。そんな嫌味が頭をよぎって消えた。

・・・ま、こうして二人でのんびりしてるだけで・・・なんて。
アンタにゃ口が裂けても言えねぇけど。

 

「・・・お」
目の前をひゅ、と黒い何かが横切ったのと同時に、アスマが声をあげた。

「今の見たか?」
ツバメだぜ。

咥え煙草をゆらゆらと遊ばせながら、楽しそうに言うアスマ。

「こんなに晴れてるのに・・・雨でも降るってのか?」
そう言って空を眩しそうに見上げる横顔。

細められた目元と、寄せられた眉根。突出した喉仏。

 
・・・俺、何を・・・

 
思わず見惚れていた、だなんて。
これこそ、間違っても口に出来ない。

 

「よっしゃ!」
逸らした視線の先で大きな声をあげられて、不覚にもぴくりと肩が震えた。

「・・・んだよ、急にでけぇ声だして」
「もう一局やるぞ」
「はァ?」

呆れ顔の俺に、楽しそうに笑うアスマ。
ホラお前も準備手伝えよ、なんて言いながら駒を並べ始めた。

 

ヒュ、と。
深い青色をしたツバメが、再び俺達の横を通り過ぎていった。

 

 

 
 

ぱちり、ぱちり、と静かに駒を打っていく。

と、次第に、その音に併せるかのように、ぱらり、と微かな音が重なってきた。

 
「あ・・・」

縁側に、ぽつりと雫が落ちる。
それは将棋盤にも、ぽつりぽつりと小さな雫を作っていく。

「っと・・・」
いけねぇ、と言いながらもさして急いだ風もなく、アスマは将棋盤を持って悠々と部屋へあがっていった。

 
降りだした雨はあっと言う間に激しさを増し、雨粒もぼたぼたと大粒になって零れ落ちてくる。

「・・・すげぇ」
雨の勢いになのか、それともツバメの諺の正確さになのか。

自分でもどちらとも分からない言葉をぽつりと吐き出して、降り注いでくる雨をそのままに、しばらく空を仰いでいた。

 
「おい」

背後に聞こえた太い声にハッとしたのと同時に感じる、肩に乗せられた温もり。
「なァにぼけっと突っ立ってんだよ」

風邪ひくだろーが。

その声に振り向けば、緩く細められた瞳とかち合った。

「あ・・・」

何故だか雨に打たれてみたかった、なんて自分でも分からないこの気持ちを他人に説明できる筈も無く。
なんと言っていいのか、言葉を選ぼうと思っていると、目の前の男の口元が少しだけいやらしく緩んだ。

「・・・あぁ」
「な、何だよ」

何かに気付いた風な呟きに訝しげに眉をひそめると、相反して楽しげな声を返された。

 

 

「・・・こうして欲しい、って事かァ?」

 
ぐい、と肩を引かれ広い胸の中に抱き込まれて。
そんな事を耳元で囁かれて。

 
「・・・オヤジ・・・」
「るせー」

 

そんな軽口を叩いてもアスマの口元がにやけっぱなし、って事は。

 
俺の情けない程の頬の熱さは、気のせいじゃねぇ、て事だ。

 

 

 

「どうだ?」

 
気だるい身体を持て余すように横になる俺を、背中越しに覗き込みながらアスマが聞いた。

「・・・?」
余韻に浸ってぼんやりした頭では、アスマの問いかけなんてまるで分からず。

とろりと溶けそうになる意識を必死で繋ぎとめていると、ふ、と煙草を咥えた口元が緩んだように見えた。

 

「・・・すっかり、暖まったみてぇだな」
くく、と喉の奥で笑って、くしゃりと俺の頭を撫ぜる大きな手。

 

「やっぱ・・・オヤジくせぇ」
「何とでも言え」
ふー、と紫煙を吐き出して、近くの灰皿で煙草を揉み消す。

 
そんなアスマの仕草をぼんやりと瞳に映しながら、あぁ、さっきまであのごつごつした指が俺に・・・・・・なんて。

自分でもどうかしてる、と思う。
そこから湧き上がるのは、嫌悪でも、恋の甘酸っぱさでも、濡れた情欲でも無く。

 

―――あったけぇ・・・

 

アスマの一部が俺の中に溶け出した、いや、俺がアスマの中に溶け込んじまったような。

そんな、温かさ。

 
 

思うままに、重たい瞳を閉じようとした時だった。

 
「・・・お」

 
アスマの声と共に背中が、ふ、と涼しくなった。

少しだけひやりとした空気に瞼を開けて見上げると、片腕で体を起こし窓の外を見るアスマ。

「雨・・・小降りになってきたな」

顎で指す方へ顔を向けると、障子戸の隙間からは細い絹糸のような雨が見えた。
音もいつの間にかさらさらという微かなものに変わっていた。

 
「あぁ・・・ホントだ」

ぼんやりとした声で返すと、頭上からふんわりとした空気が流れた。

 
「・・・?」
自分でも間抜けだな、と思うような呆けた顔を向けると、頭上にある顔は嬉しそうに歪んでいた。

 

「んだよ、ニヤニヤしやがって」
「・・・いんや」

睨んでもまるで気にかけないのはいつもの事。
更に口元を緩めるのも・・・いつもの事。

 

「・・・止むまで、もう少しこうしてっかァ」
体を再び背後へと滑り込ませて、さらりと俺の髪を梳く。

 
「さっさと帰りゃよかったのに・・・」
「冷てぇ事言うなよ」

 

背を向けて丸まる俺に、さっきはあんなに無防備な顔してた癖によ、と拗ねたように言うアスマ。

 

 

「ハイハイ・・・」

俺が、今。
どんな気持ちで、どんな顔をしているかなんて。

 

 
「ったく・・・」

アンタ、分かってるんだろ・・・?

 

 

 
吐き出された溜息に、微かに笑みが含まれていて

 

口元が更に緩んだ。

 

 

 

 

 

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6月お誕生日の愛しいひと。みむちゃんへ捧げます。

燕って黒じゃなくて青いんですね。
燕が甘いひとときを運んで来てくれた、て事で!←
お誕生日おめでとうv

2009.05.31

[センニチコウ]のみゅうちゃんから頂いた素敵なお誕生日祝いです!!!!!
ご感想はぜひみゅうさまへ直接!! ※みゅうさま宅は、大人向けのドリサイトです。

2009.05.31 mims
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