残 滓
「お前、・・・いいのか?」
無骨な手が身体を這うその合間に低く耳に絡みつく声はいつもそう問うてくる。
「・・・なにがだよ」
あんたこそ、どうなんだよ。
こっちの方こそ聞き返したいその問いに答えることも、ましてや考えることも面倒くせぇ。互いの置かれているこの状況が何か意味を成すものなのか、なんて。
「うっ・・・ぁっ・・・」
不自然に尖る胸の先をきつく摘まれて背を仰け反らせた俺に、満足気な吐息が降って来る。
「女みてぇな声、出すなよ」
「な・・・っ、あ・・・っ」
むかつくような言葉を吐くくせに、その手は執拗に俺を苛んでまだ早すぎる高みへと連れて行こうとする。
「・・・悪くはねぇけどな」
お前がこんなヤツだったとはな。
憤りしか感じられないようなその言葉の深いところに潜められた意味は、止むことを知らない無骨な手の動きと頬を擽る硬い髭と、そして煙草臭く熱い息が教えている。
こんな匂い、嗅ぐのも嫌だったはずなのに、今の俺にとっては身体を疼かせる以外の何物でもなくなってる。それが厭わしいはずなのにどうしようもなく愛しい。
だからいちいち余計なこと言うんじゃねぇよ。
「イきたいか?」
「べつ、にっ」
「素直じゃねぇな」
自分に注がれる執着を身体は疑ってはいないのに、大きな身体に後ろから包み込まれる安心感と与えられる快楽を素直に受け止められないのは、この男のベクトルが本当はどこに向かっているのか掴みきれないからかもしれない。
それでも、もどかしい快感に焦れた俺は、硬く育ってしまった自身へと手を伸ばす。
「触るなよ」
「・・・っ」
なんでそんなに底意地がわりぃんだよ。
内心で悪態をついたって素直にそれを飲み込むしかない俺は、固くシーツを握り締めて襲い来る波に耐えるしかできずにいる。
喉の奥で笑いながら深く身体の奥に入り込んだ指は、一気に俺を解放へと向かわせた。
「うっ、・・・あ、あっ・・・いっ・・・っ」
は、は、と短い息をつく俺の胸に飛び散った白濁を、無骨な指が掠め取っていく。
「お前、どーする?」
こんな身体になっちまって。
喜色を滲ませた声と共に目の前に晒された指。そこに絡みついた自身の欲望の証を、呆然と見遣る。これは、紛れもなくあんたへのものなのに。
「知らねぇよっ」
あんたも、俺も。
この関係の不毛さに気付きながら、知らないふりをしているだけで。それでも溺れているのも同じだろう。
なのに、まるで他人事のような言い様をされるのが悔しくてたまらねぇ。
頭のどこかが焼き切れちまってる俺は、その無骨な指に噛み付いた。
「おいおい」
青臭い残滓を執拗に舐め取る俺にかけられた声はどこか宥めるような響きを伴っていて、それがまた俺の悔しさを煽る。
だから腕からすり抜けた俺は向き直って息を呑む。注がれる視線の、切なげで愛しげなその色に。
「アス・・・っ」
目頭に不意に上ってきた熱いものを見られるのが癪で、きつく目を瞑った俺はそのまま緩く微笑みを象るその唇に噛み付いた。
悔しい。
けど、どうにもならないくらい他の事がどうでもよくなっちまう。
「シカマル・・・」
絡み合う舌の間から呼びかける濡れた声は、俺の思考の全てを停止させた。
今は、それでいい。
あんたが俺の全てなら。
[ 残 滓 ] *アスシカ*
親友ぽんたちゃんからのいただきものです。
もう何と言ったらいいか、アスシカーーー。胸がずくずく疼くよ(>_<)
ほんまにありがとー、またリアルに叫びに行くから!!
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2009.03.29