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怒りは最も短い狂気なのだとどこかの本で読んだ。ならば夏とは狂気の連続で停滞だ。いらいらしっぱなし。ぱしんと乾いた音に一瞬遅れて、初めて人の横っ面を自分の右手が叩いたことに気が付いた。グーではなく平手だったのは情けないことなのかそれでも幸運なことだったのかは定かじゃない。とにかく。

「……ごめん」

あんまり実感が沸かなかったからなのか、まるで「え?今の俺が悪いの?」とでも言うような欠片も心のこもらない軽い謝罪の言葉が出た。喧嘩していたわけでも、アスマが許されがたい何かをしたわけでも、アスマの左頬に蚊が止まっていたとかでもなかったので、悪いのは100%俺ということになる。それに気付くのにさらに五秒ほどかかって、その後急にとんでもないことをしでかしたような気がしてきた。アスマが何も言わないのがまた不気味だ、もしかしたら今思考停止状態なのかも知れなかったけどその内それも正常な働きを取り戻すだろう、つまり、俺、どうするの?というわけで。暫く固まっていたら何故かアスマが吹き出した。あまりにも想定外のリアクション。

「お前なんつー顔してんだよ」

まるで父親が息子にするみたいに、かわいくてかわいくて仕方ないみたいな仕草で頭を乱暴に撫でられる。やめろほどける、と言いたかったけど言わずにされるがままになっていた。何の理由もなく理不尽に横っ面張られた人間のとる行動ではなかった。

「俺そーゆー顔弱いんだよなあ」

「…何それ」

聞いても笑って流されるだけだった。何なんだ、畜生。もういっぺん叩いてやろうか。ともかくそんな出来事をきっかけにしてアスマがべたべたくっついたりしてきたのはラッキーだったかも知れない。夏の間はさらに熱いことをしようと思わせるのが意外と困難だったりする。二人もつれて倒れ込んで目があった。アスマの色素の薄い瞳に間抜け面の俺が映り込んでいる。



手なら尊敬。

額なら友情。

頬なら厚意。

唇なら愛情。

瞼なら憧れ。

掌なら懇願。

腕と首なら欲望。




(それ以外は?)



つるんと滑らかできらきら宝石のよう。

手を伸ばす前に捕まってべろんと舐められた。食われちまいたいと思うのは夏のせいなのか。







夏は何処までも





+++


フランツ・グリルパンツァー「接吻」
それ以外は、凶器の沙汰。
(お題提供:エッベルツ)




14820打を踏んでくださったmimsさんに捧げます!
アスシカなら何でもというリクエストでしたが、とんだ季節外れ&たが外れになってしまいました。こ、こんなんで良いんでしょうか…(・・;)

苦情返品は24時間受け付けてます☆
それでは、企画参加ありがとうございました〜!!




古都森さんよりいただいた、素晴らしすぎるアスシカです。グリルパンツァー「接吻」の一節、それ以外は狂気の沙汰。大好きなんです!たまらなくそそられる文字列で。用いてくださり嬉しいです(もしかしてご存知でしたか?←そんなわけない。笑)。 なんかもう出だしの一文からずんときて、無意識でぐるぐるしている少年の好ましい狂気の方向(単に私の好み、ですが)にやられました!ふたりの情景が浮かぶんですよ、微妙な表情とか。ふたりの間に流れる空気とか、背景とか。季節外れもたが外れもぜんぜん問題ないです、むしろもっとたがを外してくださっても……なんて。アスマのお誕生日にお迎えにあがり、さっそく大切に飾らせていただきました。


ご感想はぜひ古都森さんへ直接どうぞ!!!萌え文の群れに、ぐらぐらになります。


2009.10.18 mims

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