心地よい眠りに入り込んだのは飛び交うサイレン。その休日の朝は、こうして始まった。
「というか、なんでお前がここにいる訳?」
目が覚めたら一番に飛び込んで来たのは、つんつんの黒い髪。
我が物顔にソファを占領した侵入者は、悪びれもせず牛乳パックにそのまま口を付けている。それ、俺ん家のだよな。
「すげえ近くで止まったな。こんなの滅多にないんじゃねえ?」
質問は完璧スルーで、ごそごそと立ち上がる。滑り落ちたタオルケットの影から覗く臑毛。なんでズボン脱いでんだよ。朝から男のそんなもん、見たくないんだけど。
窓から外を覗こうとしてるのか、無遠慮にベッドに膝をついて俺を跨ぐ。シングルのそれに、男がふたり。スプリングがギシギシと軋んだ。
「うわ、二軒隣だ。神月、お前も見てみろよ!」
ほら、ほら。すげえだろ!腕を掴んで引っ張られる。
一晩中エアコンいれっぱなしで冷え切った肌に、染み込む掌の熱。
だいたい俺ひとりだったら、ドライで充分だし。いま頭が痛いのはこいつが夜中ガンガンに冷房効かせてたせいかと思ったらムカついた。
「興味ない…」
熱い掌を振りほどいて、頭まで布団をかぶる。なんだよ、こいつは。一体なんなんだ。
俺の休日の朝は、目覚ましもかけずに自然な覚醒で始まって。ベッドサイドの本を片手にうとうと。心地いい音楽と、コーヒーの香りでゆるやかに過ぎていくものなのに。もっと静かに。
「バッカ!すげえぞホントに、隣真っ赤なんだから」
あいた窓から入り込む人いきれ、少し焦げ臭いニオイ。やじ馬根性なんて俺には無縁だから、詰られても煽られても身体を起こす気にはなれない。
「はがね…」
「何?」
「うるさい。窓閉めて」
貴重な休日の朝を乱さないでくれ、頼むから。疲れてんだ。
やじうま 本当は、何より乱れているのは心。
一瞬触れただけの掌の熱に、ばかみたいに身体が熱くなってるなんてのは、絶対お前に言わない。- - - - - - - - -
2009.07.21 mims
コテツ☆はぴば