俺に、何を望んでる?
我儘には呆れてるはずなのに、憂いに満ちた双眸が、静かに俺を束縛する。柔らかい心の襞を土足で踏みにじるような言動に、何か裏があるんじゃないかと、下手な勘繰りを止められない。
人を喰ったような飄々とした態度も、全てを見透かす視線も、脆い本心を隠す為のカムフラージュに思えて。
たった一瞬、揺らいだ肩は、まるで想いが溢れ出す合図に見える。強気な口調は、曖昧な虚勢じゃないだろうか。甘い睦言の底には、彼の限りない弱さと強さが同居していて、行間で雄弁に語られる無言の訴えに胸が詰まる。
「イルカ先生、名前呼んで?」
彼がどんな気持ちで口を開くのか、不器用で疎い俺には分からないのに、それでも理解したいと切望する時点で、パワーバランスは大きく彼寄りに傾いている。見えない表情が、想像力を煽り、どんな理不尽な願いでも叶えたいと思う俺は、やっぱりあんたの虜で。
不敵に笑むあんたの表情と、背筋の窪みを滑り落ちる白い指先が、ゆっくりと俺を壊して行く――
淘汰されて泣いた弱者のたわごと先生って意地悪されるの好きでしょ。
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2008.07.08 mims