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 ひとの事なんてどうでもいいから、お前個人としてはどうなの。そんな問い掛けをする人間は、自分のことばをもう一度よく考えてみるべきだと思わねえ?

「だってそんなの有り得ねえだろ」

 大きな身体に包まれている安心感と、繰り返し穿たれたせいで全身に残る倦怠感。それらが一緒に襲ってくると、たいして重要じゃない言葉がぺらぺらと口をつく。俺、なに喋ってんだろ。

「ふん」

 返ってきたのは、肯定とも否定とも取れそうな相槌だった。俺の言いてえこと、分かる?いや、わかんなくてもいいや。
 個人とか自分って概念がそもそも他人との比較を前提としたもんじゃねえか。だとしたら「お前個人」っていう言葉が指してるもの自体が、最初から他人を意識したものになってて当然ってことにならねえ?
 個人の反対の概念ってなにかっつったら、集団とか、社会とか国家とか。ほらな、他人のいない世界に自分なんて存在すらしねえってことになるだろ。だから軽々しく個人的とか使うのってヘンだと思うんだよなあ。

「シカマル…」
「ん?」
「何言いてえのか全然分かんねぇんだが」

 マジかよ。まあ、でもアスマだもんなあ。仕方ねえか。つうか、別に俺も理解して欲しくて喋ってたわけじゃねえから。屁理屈だっつうことも分かってるし。ただ面倒な問い掛けをされたのを思い出して、ちょっと愚痴ってみたくなっただけ。
 お前個人としてはどうだ、と問い掛けるヤツは、明らかに俺に対して批判的な感情を抱いていて。それが何故かと考えれば、周りの人間との差異のせいで。だとしたら、あんたの言いたい事って何?って、逆に問い掛けたくなるじゃん。でも、そんなことしたら無駄に会話が長引くだけだから、するつもりねえけど。

「分かってやれなくて、わりぃな」

 謝罪の言葉には違いないのに、全然困ってなさそうなアスマの顔。アンタのその、細かいことにはこだわらねえけど興味ねぇ訳でもないっていう微妙な態度。すげえ好き。
 ぐるぐる考えてる自分がアホらしく思えてくるんだよな。それでいて、すべてを受け入れてくれてるような空気を纏ってるのがアンタなんだ。
 ヤニ臭い指が俺の唇を辿れば、さっきまで話してたことなんてどうでも良くなって。もともと意味なんてねえし。ピロートークの一環っつうか。その話題にあんなこと選んだ俺が馬鹿だったって、それだけ。
 くつくつと小さく笑いながら、血管の浮き出した太い首筋に抱き着いて。燻る匂いの染み付く熱い肌に、鼻先を擦りつけた。



 ◆



「バーカ」
「だな。でも……それって今、重要なこと?」

 問い返せば、かぷりと首筋に歯を立てられて。アスマって、やっぱり頭悪かったのな。はにかむような笑みを浮かべ、髭をぐりぐりと撫で回される。つきん、薄い皮膚越しの尖った感触は、痛みと快感の混ざり合う感覚を俺にもたらす。
 鼻先を擦り寄せられ、情事の余韻を引きずる独特の匂いが鼻孔を満たしたら、彼の言葉を理解できないことなどどうでも良くなる。

「頭悪ぃ奴は嫌いか?」
「さあな…でも」

 すっぽり俺の腕に包まれてるくせに、まるでこいつのほうがずっと偉そうじゃねえか。天才だかなんだかは置いといて、いまはただの甘いひとときを味わったらいいんじゃねえの?
 理解出来ないものを無理して理解しようとするほど、俺はヒマでもお人よしでもねえから。それよりも、お前のしなやかな若さを味わっているほうがずっと良い。

「バカな髭オヤジは、嫌いじゃねーかな」
 むしろ好きかも。めんどくせーけど。

 微かに眦を下げて唇を尖らせる姿は、出会った頃のお前そのままで。最初っから生意気な奴だったけど、その黒目は真っ直ぐに心の芯を射抜いた。

「相変わらずお前は…」
「んだよ。アンタまでめんどくせーこと言うな」
「シカマルにかかれば、世の中の大抵のことはめんどくせえんだろうが」
「まあ…な」

 くく、咽喉を鳴らして笑う姿には幼さと言葉にならない艶っぽさが同居している。ガキのくせに、大人を煽るにはどうすりゃいいのか知り尽くしたような指先。たどたどしい動きが、俺の鳩尾を辿って滑り落ちる。
 全然面倒臭くなさそうに脚を絡めて来るお前が、歯痒いほどに愛おしかった。



かりそめ
さっさと素直になればいい


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2009.04.28 mims
ひそかにアサちんの一周年へ捧げ。
遅くなった上によくわからんモノですまぬ
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