まだ夏は始まったばかりなのに、その日の太陽はそんなに生易しいもんじゃなくて。照り付ける陽射しは、容赦なく肌を灼く。細胞を介して伝わる熱で、骨まで軋みそうだった。
なのにその場から動けない俺は、きっと傍目から見れば、ただの馬鹿野郎だ。正確に言えば動けないのではなくて、動かない。灼熱の陽射しが黒髪を焦がす。じりじりと。
それでも立ち尽くしているのは、熱を上げる体温に紛れて、胸の奥に点る火がぼやけてしまえばいいと思ったから。赤く色を変える皮膚の痛みが、不毛な切なさを覆い隠してしまえば…と。
まるで何かの罰を受けるように、容赦ない暑さを受け止める。徐々に奪われる水分で、心も身体も渇いて。あとに残るのは、意図とは逆に、隠しきれない愛おしさだけ。太陽に蝕まれた頭が、くらくら。真っ白な背景に、アンタの切ない表情ばかりが浮かんでくる。
俺ってやっぱり馬鹿じゃねえの。結局なにをしても、考えるのはアンタのこと。否定しても藻掻いても、最後に残るのはアンタだけ。
「倒れんなよ」
「バーカ。んなにヤワじゃねえっつうの」
噛み付いた途端に、目の前が暗転して。髭面の残像が脳内でゆれる。
なんでアンタなんだよ。そう思うのに、もう反論すら出来なくて。心臓の鼓動が襲いかかる、体中がばくばくと脈打つ。目をあけていられない。
「なまっちろい身体しやがって」
くつくつと笑う低い声。やっぱりそれにどうしようもなく乱される。
もう、馬鹿でもいいや。思いながら意識は途切れた。
じりじり俺の腕に倒れてこい
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2009.05.17 mims
熱射病になった奈良くん。