あんたの抽出物ならなんでも取り込んでしまいたかった。母乳の成分は血液とおんなじだと言うけれど、この白い飛沫はどうなんだろう。
ごくり。嚥下した液体が器官に絡みつく。口の端から滴りおちたそれは、流しても流しても肌に染みついて取れなかった。まるでこの世にいのちがしがみつくように。
「飲んだのか」
うわずった問い掛け、漏れる吐息は荒く、浅い。それって、気持ち良かったってこと?ちゅ、先端にくちづけて残滓を掬う。しっとり張り付いた前髪の奥で、顰む眉。切ない表情に胸がうずく。
…ああ、飲んじまった。嗄れた声を絞り出せば、鼻腔のずっと奥で生臭い匂いが渦巻いて。少し苦いその味が舌先に纏わり付く。
「なんで」
「別に。ちっと興味があっただけ」
肉眼では見えないはずの細胞の蠢きが、喉元で感じられる気がする。これからただ死んでいくだけなのに、生きたい生きたいと騒いでいる。実際は、空気に触れただけで大半が死んでいるのだけれど。
「ほら、口…濯げ」
気持ちわりぃだろうが。向けられたシャワーの飛沫から顔を背ける。なまっちろい脚。つめたい床にひざまずいたせいで、膝頭は不自然に紅く変色している。
軽々と引き上げられる身体は、情けないくらいにふるえて。濡れた広い胸に抱かれたら、鼻の奥がつんと痛んだ。
「…興味、ねえ。なんの興味だか」
「アホな親父と違って、俺はイロイロ考えてんだよ」
疲労と排泄物の味にはどんな関係があんのか、とか…な。湿った肌の匂いを吸い込みながら、口から出任せ。
「で、何か分かりましたか。天才少年サマ」
「データ不足。つうか、一回で分かる訳ねえだろ」
「…って、毎回飲むつもりか?」
「んなの、マジ勘弁」
キッと睨みあげれば、にやり、歪んだ唇が降ってくる。絡め取られる舌が熱い。
いくら中に注がれても、俺の身体は不完全で。だったら注がれる場所を変えれば、なにかが変わるんじゃないかと思ったんだ。
数億の細胞の群れが俺の中を泳いで、じわじわと降りて行く。俺の望みは俺の勝手な望みで、アスマはそんなことを望んじゃいないと分かっているのに。止められない渇望が、腹の底でとぐろを巻いている。
人間のカラダも含め、自然の摂理だとか宇宙ってヤツは誰が創ったんだってくらいよく出来ていて。なるべくしてそうなってるっつうか、とにかく普段は感心することばっかだけど。俺のこの望みだけは、どうやっても実現しないことは分かっている。
自然の摂理に反する関係だから、神様は望みを叶えてくれないのかもしれない。一番欲しい器官を、何故俺に与えてくれなかったんだろう。
「どうした、泣きそうな顔して」
「……」
胸を刔られるようだ。そう思ったあと、不思議な気がした。よくある表現だけど、実際に胸を刔られたことなんてないのに。でも、この感覚は、やっぱり刔られると表現するのが一番しっくり来る。
馬鹿みてえ。そもそもその器官があれば、あんたは俺をこんな風にぐちゃぐちゃにはしてないし、俺もあんたに引きずられたりしてねえのかもな。
えぐる余計なこと、考えられねえように壊してくれ
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2009.06.12 mims