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 濡れた瞳を見せられたら、そこが何処なのか忘れた。

 身体の記憶ってのは、どちらの意味でも侮れない。たった数日会えずにいただけで、はじめて触れるようにたどたどしい指先。なのに、一度触れてしまえば細胞も末梢神経も記憶を引きずりだしてびりびりと震え始めるのだ。
 女みたいに細い腕が、闇を掻き分けてのびてくる。身長差が半分になっても、お前は相変わらず華奢なまま。いつか俺はこの存在を壊してしまうんじゃないか、と怖くて。その怖さの分だけ貪欲になる自分が、もっとこわかった。

「重い」
「ああ」

 ああって、何だよ。ああって。俺これでも一応病み上がりなんすけど。上気した頬は風邪のせいなのかそれとも別の理由が。どちらでも構わないから早く触れたいと、覆い被さった身体に体重をかける。その後で、どちらでも構わないのは俺だけで、それは余りに非道かもしれないと、ほんの少しだけ身を持ち上げた。ほら、少しでも現世の業を軽くしておいた方がいいとか思うじゃないか。まあでも、こんなガキをもう何度も襲ってる時点で、十分非道なんだけど。

「まだ、具合わりいのか」
「昨日よりはマシ」

 くだらないことを考える。セックスに意味があるとしたらそれはきっと命を後世に繋ぐためで。だとしたら俺たちの非生産的な営みは、セックスですらないのかも。そう思っているうちに身体は勝手に動き始めて、ふれる感触と聞こえる声に、頭も体もどろどろに溶けていく。
 何かの意味を考えるなんて、ろくなもんじゃねえ。屁理屈みたいな理由づけで頭を納得させることは、ときに真実を見えなくする。だったら、勝手に溢れて来る思いに従う方がずっと良い。意味なんてあってもなくても大差なんてないのだ。頭で考えるより、身体の方が正しい選択をするもんだから。

「じゃあ、いただきます」

 じゃあって、それ…バカにしてんのか。病み上がりだって言ってんだろ。お喋りな唇に、はくり。かみついた。





 つまらない理性

 分かってると思うけど…いちおう、親父ら下にいるから。




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2009.06.17 mims
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