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 頭いてえ、はんぱなくいてえ。痛え。後頭部をずきずきと走り抜ける鈍痛。口を開けば一つの言葉しか出て来そうにないから黙ってるけど。痛い。いたいんだ。
 だいたい鱧には焼酎ロックが似合うなんて誰が決めたんだよ俺はいつもどおり冷えた烏龍茶があればそれでよかったのに美味さが増すなんてそんな根拠もないイイ加減な大人の言葉を信じるんじゃなかった。最初からあんたがイイ加減なオトコだって知ってたくせに。
 でも最終的に信じることにしたのは俺で、鱧の合間に流し込んだ透明の液体はたしかに美味かったんだけど。鱧の美味さが増したかどうかはわからない、たぶん美味かった。食べ物には執着ねえからあんまり興味ねえけど、不味くはなくてもっとたべたいと思ったのは普通の感覚でいえば美味かったってことなんだと思う。美味かった、けど。でも。
 とにかくいまは頭がいてえんだ、頭痛がひどい。かなり。ずくんずくん音がしそうなくらい頭蓋骨の内側で血液だかリンパ液だかが暴れている。頭蓋ってやつはかなり頑丈に出来てるモンのはずだけど、それがぎりぎりとイヤな音立てて軋んでる感じ。割れそうってのはたぶんこのこと。二日酔いでふらふらになってる親父とかおっさんの苦悩がはじめて身に染みた。コレたしかに最悪だ、まじで頭ぐちゃぐちゃだし胸はぐるぐるだし。吐きそうなくらい。脳みそひっくりかえってどろどろ溶けて出てくるんじゃないかな。なんなんだコレ。

「なんだそのかお」
「黙れよ」

 頭の芯に響くんだってあんたも知ってんだろいつも自分がそう言ってるくせに。喋るのも億劫だしこうして自分が集合場所にあらわれていることじたい嘘みたいな気がする。フラフラだ、まっすぐ立ってるのもやっとかも。

「ひでえ顔」

 眉間のシワはいまだかつてないくらいくっきりと深く溝を刻んでいる自信がある。たぶん息は思い切り酒くさいし、ゆらゆら揺れてるのは地面とか空じゃなくて俺だという自覚もある。こんなんじゃ任務遂行なんてきっとムリ。なんであんたは平気な顔して真っすぐ立ってられるんだ、悔しい。
 大丈夫かよと肩を支えた手の平がわざとらしさ満点にうなじを撫でおろしてはなれていく。のこる硬くて熱い感触はきっと昨晩もなんどもなんども俺に触れたものの気がするのに細胞たちはなにも覚えていないみたいに一瞬で過敏反応する。過剰反応、か。ばか、ふるえるな俺のカラダ。

「んなわけねえだろ不良親父」
「帰るか」
「あほか、任務どーすんだよ」
「だよな」

 教え子に、それも二日酔いでいまにも死にそうにぐらぐらしてる教え子に諭されてどうすんだよ上忍が。猿飛せんせー。

「さっさと行ってとっとと終わらして帰ってシャワー浴びて寝る」

 気分わりいから。まじではんぱなく気分わりい。酒なんてぜったい飲むもんか、ぜったい。二度と。
 ほらまた首筋に指が触れた、さっきより強く。ぐ、押されると痛い。痣ににた痛み。いたいのはそこに痕があるから、あんたの唇がきつく吸い付いた痕。記憶は相変わらずさだかじゃないけど、あんたのその下がった眦はそういうことなんだろ。頭いてえのに気持ちわりい表情みせんなっつうの。

「だよな」
「ああ。俺、死にそう」
「そう言うと思ったからシカマル坊ちゃんがお休みの間に猿飛めがすべて済ませておきました」
「んだよそれ」
「うちで浴びれば」
「は?」
「シャワー」
「………」

 また鱧くってもいいかな。酒もアリかも。



2009.08.08 mims
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