でも、ほんとは甘いのは君だけで充分

「いらっしゃいませ、ようこそカフェ・ドゥ・フィヤージュへ」

 このカフェの従業員は、本当にみんな見目麗しくて、目に映るだけで女性をしあわせにしてくれるけど。

 私が会いたいのは、たった一人。
 彼だけ。


「こんにちは。あの、」
「存じております。はたけ、ですね」
「えぇ、いつもすみません」


 意味深な笑みを浮かべるシカマル君に、毎度すこし照れながら、私がここへ来た目的を告げようと口を開く。
 察しの良い彼は、いつもその前に気が付いて、カカシさんへそっと目配せをする。


「いらっしゃい、待ってたよ」

 近付いてくるカカシさんの笑顔は、誰に対しても同じように甘い。
 なのに、さらさらの銀髪を靡かせながら、彼の声が私の名を呼ぶと、なぜかその瞬間だけは、彼を独り占めしているような錯覚に陥って。

 まるで、何かの魔法?

 あの声でささやかれると、脳内を直接なでられるみたいに頭の芯が痺れて、他のことはなにも考えられなくなる。


「今日は俺にご馳走させてよ」
「え、なんで」
「いいから任せて。ね?」
「……はい」


 もしかして、彼は 知ってるんだろうか。
 誰かに聞いたのかもしれない。
 それとも、今日は七夕だから、かな。


「ちょっとだけ目を閉じててくれる?」
「……っ、」


 カカシさんのキレイなてのひらが私の眼元をそっと塞いで。
 そのひやりとした感触に胸がざわざわと騒ぐ。

 コトリ、とプレートがテーブルに置かれる音がして。
 視界を遮る熱がはなれていくのを、すこしだけ寂しく思っていたら、それとは違う甘い熱気が、耳窩から私の身体のなかに注ぎ込まれた。


「愛する君へ、誕生日プレゼント」
「……」
「白桃のタルト。はたけスペシャルだよ」


 なにこれ、どういうこと?
 こんなに近くでささやかれたら、力が抜ける。

 心も身体も蕩けそう…――




(勿論、食べてくれるでしょ?俺の気持ちと一緒に、ね…)



でも、ほんとは甘いのは君だけで充分
2008.07.07 mims
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