極上スイーツにとろける夜

「あの、私」
「はい」
「こんなもの頼んでないんですけど」

 席に着いたのとほぼ同時に出てきたのは、きれいにデコレートされた小さなケーキと、なにか含みのありそうなゲンマさんの不敵な微笑み。

「俺からのサービスです、」

 どうぞお召し上がりください。と言いながら、隣にコーヒーのカップをそっと下ろすゲンマさんの指先の美しさに、つい見惚れた。

 きょうは誕生日、だから?
 親友との待ち合わせにはまだ時間があるし、遠慮なく頂いてしまおう、と思った。


「じゃ、頂きます」
「どうぞ」
「でも、なんで」
「大切なお客様の大切な日、ですから」

 大切なお客様って、
 もしかしたら、あの子が何か伝えたんだろうか。

「それからお連れの彼女、今夜はいらっしゃいませんよ」
「え?」

 私へのサーヴを終えて、去っていくのかと思っていたゲンマさんは、さらりとエプロンを解くと、同じテーブルへと腰を下ろす。
 こんな距離で彼を見たことなんてないから、胸が跳ねている。これ、いったいどういうこと。

「理由は、あとでじっくり…」

 余裕たっぷりの表情で私の瞳を正面から見据えながら、彼は意味深な言葉を紡いだ。

「あの、ゲンマさん」
「ケーキ、食べねぇの?」

 白いシャツのボタンをいくつか外しながら、私の耳元に顔を近づけた彼からは、眩暈がしそうなほどのつやっぽさがあふれだす。これ、なんの誘引物質だろうか。もはや、犯罪だとおもう。
 返事をすることもできずに、身体が硬直する。

「食べさせてやろうか」

 銀のフォークを掴んだ私の手を大きな掌が包み込んだ瞬間に、身体から力が抜けて。
 促されるままに口を開く。

 なんなの、これは。
 あーん、って。私いまなにしてるの。視線が、いたい。

 口の中を満たした甘い欠片と、同時に鼓膜を揺らしたゲンマさんの言葉で。
 なにもかもが一瞬でとろけた…――



(今夜の君の時間、俺が貰った)
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2008.06.17 mims
Bon anniversairepour rumi
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