きのこと秋野菜のキッシュ

品の良いベルを鳴らし、ドアを開くと
広がる空間は私にとって異次元の世界。

「いらっしゃいませ。」
ようこそ、カフェ・ドゥ・フィヤージュへ。


出迎えてくれた彼の、笑顔が眩しい。

「こちらへどうぞ。」


紳士的にエスコートしてもらうとまるで
自分がどこかのお姫様にでもなったのではないか。
と、錯覚してしまいそうだ。



少し、遅めのブランチ。
その時間独特の、清々しい日の光が
彼によく似合っている。


「メニューになります。」


「ありがとう。」

差し込む日の光に照らされた
お洒落なグラス。

そこに透明の、一段とグラスを輝かせる液体を注いで
軽く微笑んでくれた彼からメニューを受け取る。


私は微笑めているだろうか。

だって心の中は、貴方の存在にかき乱されているんだもの。


太陽の光も、貴方の笑顔を引き立てるだけの材料なのかもしれない。



「これ、頂きます。」


「かしこまりました。」
きのこと秋野菜のキッシュでございますね?


「はい。」



「少々おまちください。」


メニューを渡すと、また微笑みが降ってくる。


交わしたのはほんの少しの言葉なのに
その笑顔で、これほど満足に感じるのは何故だろうか。



キッシュが運ばれてくるまでの時間も、
苦痛には感じない。


今、そこに貴方が居たという
その感覚だけで幸せなのだ。


店内には程よい音量のジャズが流れていて
他のウエイター達と目が合うと微笑みが返ってくる。

なんて素敵な空間なんだろう。


「お待たせ致しました。」


トレイに乗せられた白い、白いプレート。

それをテーブルにセッティングしてくれる
彼の仕草も、素敵だ。


「ありがとう。」


「こちらの説明をさせていただいても」
よろしいでしょうか?



私のブランチを邪魔しない程度に
まるで、添えられる一輪の花の様な
さり気ない気配りが、癖になりそう。


「お願いするわ。」


めいっぱいの微笑みと余裕のある態度を装って
貴方の説明に耳を傾ける。


「こちらは・・」
エリンギ、マッシュルーム、しめじなど
茸をふんだんに盛り込み
それと相性の良い秋野菜である・・・



声が耳に届く度、自分の鼓動が高まる。

それが適度にな材料になり、益々貴方に溺れそう。



「それらを豆乳と卵、チーズと合わせ」
味付けはシンプルに仕上げております。


どうぞ、ごゆっくりご堪能ください。



「ありがとう。」


貴方が軽く頭を下げると、ふんわり薫る
優しい匂いが鼻腔に届く。

去って行く貴方の背中と香りを
名残惜しく感じながら

ナイフとフォークに手をかけた。



さくり。

外側の生地が香ばしい音を立てれば
簡単に私の食欲は、増幅させられる。


一口食べると広がったチーズの風味。
咥内で優しく解けてゆく。


それに、貴方の説明してくれた様に
シンプルな味で。

黒コショウが効いたこのキッシュは
まさに私好みだ。


サイドに添えられたサラダに
あっさりとしたドレッシング。

葉に落ちて光るドレッシングの粒も、
私を満足させてくれる。

幸せ。


「お口に合いますか?」

水を注ぎに来てくれたのは貴方。



「とても、美味しいです。」
すごい好き。


心からの言葉と心からの笑顔。

心の底から、思う。
こんな美味しいキッシュに
今まで出会ったことない。


「ボクも好きです。」


貴女の、その素敵な笑顔。



テーブルの上にグラスを置いて
耳元で囁かれた言葉に

私の心は、チーズの如く溶かれた。



そっか。
キッシュも私を幸せにしてくれたけど

一番の要因は貴方だったんだ・・。





てんじょーてんじょー

2009.01.12 megumi
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