シャルロット・オ・ポワール

チリリン…



「いらっしゃいませ、2名様ですか?」

「はい」

「こちらのお席へどうぞ。只今メニューをお持ちいたします」



来客を告げる鈴の音と、交わされる会話。

この店で日常的に繰り広げられる光景も、すっかり見慣れてしまったな。



カンクロウに頼み込まれて偶に…本当に、偶にだけれどバイトをしている。

誰からも無愛想と言われる、この俺がだ。

(ナルトのようにあちこち愛想を振りまくのもどうかと思うが)



接客なんて出来る訳が無いと言っても、ガタイがいい癖にケーキなんぞを作るパティシェとやらを職業にしている兄には、どうも弱く。

結局、毎回押し切られる形で手伝わされるハメに陥っている。



大学に入って3年、そんなことを繰り返しているうちに、ふとあることに気が付いた。

さっき入ってきた女性二人連れの客。

片方は犬塚の恋人と言う話だが、もう一人の方…必ず見る顔だ。

常連かと納得して出来る限り厨房に近いところで仕事をしていると、奈良からオーダーを取ってこいと指示された。



「…オーダーを承ります」



ともすれば低くなりがちな声を、出来うる限りハキハキと喋ったら、二人同時に仰ぎ見られて。

バイトに入る度、目にしていたはずの顔に見惚れてしまった。

否、正確に言えば、俺を見上げる瞳に、だ。

細くつり上がり気味の目にしては大きすぎる瞳は黒く、その深い色に吸い込まれそうになる。



「えっと、アタシはフォンダンショコラと紅茶…オレンジ・ペコ」

「あ、はい」



オーダーの声に一瞬で現実に引き戻され、焦るようにメモを取る。


「わたしは…アップルパイとエスプレッソで…」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」



急激に上がった心拍数を悟られないように、急いで踵を返そうとしたが。



「それと…」



控え目な声が耳に届き、びくりと身体が揺れる。

何を動揺しているんだ、俺は!!!?



「持ち帰りで、今日のお勧めをひとつ…お願いします」

「か、かしこまりました…」



慌てている様子を悟られないように、でも急ぎ足で厨房へ戻った俺の顔を見てカンクロウが何か言いたそうな顔をしたけれど。

相手にしてる余裕なんて、これっぽっちも持ち合わせていなかった。






訳の分からない感情に支配された頭でも、仕事は出来るものなんだな。

あの後、気付くと彼女たちの姿は既に無く、ほっとしたような気持ちと共にがっかりしたような思いが湧き上がっていた。



「カンクロウ、俺はもう上がるぞ」



返事を待たずに裏口から外界へと疲れた身体を引き摺り、歩き出す。



「あ、あのっ!」



途端に背後から飛んでくる声…これは…。

足を止め、ゆっくりと振り返ると、そこに居たのは彼女だった。



「あの…突然、すみません!!今日、お誕生日って友達から聞いたんです!いきなりで迷惑だと思いますけど…これ、受け取ってください!!」



ずいっと目の前に突き出されたのは、小さなケーキの箱。



「これ、うちの店のだな」



思わず本音が零れると、気の毒なくらいに狼狽え始めてしまった。


「あ、あ、あの…そうですよね……すみません!!
何も考え付かなくて、我愛羅さんがこのケーキ好きだって言ってたって聞いて、好きなら食べてくれるかなって…。
それでもお店のケーキじゃあんまりだとは思ったんですけど、やっぱり考え付かなくて!」



息もつかずに必至に弁解している姿が可笑しくて…。



「好みじゃない物を渡されたりするよりいいかなって…っ」

「くくっ……はははっ!!」



堪えきれずに笑い出した俺を見つめる顔…その頬がピンク色なのは、寒さと緊張と恥ずかしさと、それから?



「あの…我愛羅さん…?」



そうか。

そう言うことか。

人の顔を覚える事が得意じゃない自分が、彼女の顔を覚えていた。

それだけで、答えは明確だ。



小首を傾げて凝視する、その大きな瞳に俺は囚われていたんだろう。



「確かに洋梨は好んで食べるけど」

「え?」

「一人で全部は食べきれない。だから…一緒に食べてくれないか?」



そっと近付いて囁いたら、薄桃色だった頬は紅色に染めながら、こくりと頷く。



「それから……」



更に続けて言ったことに目を丸くして驚いた君は、華麗な華のような笑みを見せてくれた。






誕生日を教えてくれ




(俺だけ貰う訳にはいかないだろう?)






End.
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2009.01.15 amaki

Happy Birthday Gahra!!
親愛なるのあへ捧げ
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