たいせつなもの

「で、マヨ方。オメェとしてはどうしてぇ訳?」

「………」



くっそー、この銀髪天パ眼鏡野郎…それが分かんねぇからワザワザお前みてぇな教師んトコに相談に来てんだろーが。

つうか、俺にもそのペロペロキャンディもどきを寄越せ。



気持ち良さそうに吐き出される煙の匂いが、渇望を一層擽る。

彼女への渇きとニコチンへの禁断症状が相俟って、小刻みに膝を揺らす。

それに気付かないはずはないのに、わざとらしく俺の顔へ向かってヤニ臭い息を吹き掛ける銀髪男に、殺意が湧いた。



「わかんねえから、此処に来てんじゃねぇか」

「分かんない…ねぇ。成績優秀な優等生のお前にも、分かんねぇことがあんのか」

先生、意外だなァ。



白々しい台詞と、腹立つ位にニヤニヤした笑いで俺に向かい合った教師は、目の前で煙草を揉み消すと、死んだ魚の目付きで俺を見つめる。



「もう一度最初から説明してくんねえ?」

「はあ?」



あんなに恥ずかしいことを、また言わなきゃならねえのかよ?このクソ教師!



「ほーら、俺頭わりぃから一回じゃ頭入んねえし」

「だから、うちのクラスの図書委員のあいつの事が、気になって仕方ないんすよ」

別に頭なんか要らねえ単純な話じゃねぇっすか。



「いつから?」

「さあ。気付いたときには、もう」

いま考えりゃ一目惚れだったかも…。



「だからお前、用もないのに何度も図書館に行ったり、興味もない本を連日借りてみたりしてた訳だ?」

「わりぃっすか?」

「いや、悪くねぇけどな」



再び煙草に手を伸ばした銀八へ、右手を差し出した。

ため息とともに手渡された一本を口にくわえ、左手を翳して顔を近付ける。

小さな摩擦音で点る火種。肺に入り込む燻りを堪能して、一息。



「なんだァ、マヨ方くんそんなに欲しかったんだ」

「……」

「欲しいものはちゃんと欲しいって意志表示しなくちゃダメだよー?」



出来るか、ボケ!!

どこの世界に、教師に向かって煙草ねだる生徒がいんだよ。



今にも口を開いて反論の言葉を紡ごうとしたら、銀八の不敵な笑み。


「っ、何だよ?」
「だから、欲しいなら欲しいって言え。って、話」
「……」
「どうしてぇか分かんねーとか言いながら、ホントは分かってんだろ?」

ちなみに、煙草の話じゃねえよ?



「は?」

「土方。欲しいんだろ、彼女が」

「……まあ、な」


相も変わらねぇ、気味の悪いニヤけた表情でクソ教師は言葉を続ける。



「だってさー…聞いてたァ?」

銀八が見ているのは、俺のずっと後ろの方で。
小さく聞こえる、息をのむ音。



妙な予感に振り返ったら、

お前がいた。



たい
(とっくに気付いていたはずのそれに、手を伸ばしてみるんだ)


「土方くん、今のホント?」
「……嘘…じゃ、ねえな…」


2009.02.04 mims
さて、天然テクニシャンは土方か銀八か…
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