コレが真の愛情なのダヨ

手術台のようなベッドの上、寝かされて動けない。
拘束具など使わなくても、マユリさまにとって私の四肢から運動能力を奪うなんて造作もないこと。
ちくり、腕に鋭利なものの刺さる痛みが、やけに鮮やかに脳を刺激する。

今度注入されたのは
いったい何のクスリ……――



天然テクニシャン
コレが真の
愛情なのダヨ

Mayuri Kurotsuchi




「何を転んでいるんダネ?」
「……あの、」

 思いがけず優しいやり方で腕を取られ、繋がれた先の顔を見上げた。
 感情の全く滲まない双眸は、ただ、つめたく私を見下ろしているだけ。

「オマエは大事な研究体なのだから、勝手に傷付いて貰っては困るのダヨ」
「身体が言う事を聞かなくて」
「ワタシに口応えするとは、イイ度胸ダネ」
「 そんな」

 本当の事なのに。

 連日の実験続きで、少しずつ手足の感覚が麻痺しているのはたしかで。
 脳波を測定しているマユリさまにも、それは分かっているはずだ。

「もっと痛い実験に切り替えて欲しいのカネ?」
「それ、は…(イヤです)」

 ここで拒否の言葉を吐けば、きっとまたキツいお仕置きが待っている。
 最後の言葉を必死で飲み込むと、がくりと頭を垂れた。

「何か言いたいことがあるのなら、遠慮なく言い給えヨ」
「いえ…何も、ありません」
「嘘を吐いているのが、丸分かりダ。オマエは何でそんなにバカなのダネ?」
「……では、」
 ひとつだけ、聞いても良いですか?

 ぎゅっと唇を噛み締めて、彼の顔を凝視する。
 吸い込まれてしまいそうな深さを持った瞳(気持ちの悪い深さだ)、何を考えているのか分からない表情に怖じ気づきそうだ。

「何ダネ?なんでも聞き給え」
「はい……あの、」
「さっさと言い給えヨ。ワタシには山ほど研究が控えているのだから」
 オマエと違って忙しいのダヨ。

 相変わらず、怒っているとも笑っているともつかない表情が、私を見下ろす。


「さっさと言わないのなら、次の実験を始めたいんダガネ」
「マ、マユリさまはっ……」
「ん?」
「何故、こんな事をなさるんですか?」
「こんな事とは、何ダネ?」
「なぜ私なんかに、この様な実験を?私はただの、ごくありふれた女です」

 私の奥の何かを探るようなマユリさまの視線が怖い。

「希少種でもなければ、特別な才もございません。なのに、なぜ?」
「また、それカネ。何度も言っているはずダガ、」
「納得がいかないんです」
「そうか、そんなにワタシの言葉が欲しいのカネ」
 じゃあ、言ってやるから一言一句漏らさずに聞き給えよ。

 こくり、頷くと彼の顔が触れるほどに近付いて。


「愛しているからこそ、オマエの全てを知りたい。それが研究者にとっては当然の欲なのダヨ」
 何度も同じ事を言わせないでくれ給え。全くオマエは慾深い女ダネ。

 掴まれたままの腕を引かれ、再びベッドに運ばれる。
 次は、どんな実験が待っているんだろう。
マユリさまの指が、するすると私の衣服を剥ぎ取る所作にも、もう随分慣れてしまった。
 身体中には点滴で出来た痣が点在している。


「次は、どの様な実験なのですか?」
「さっき注入した薬の、反応試験ダヨ」
「さっきのは……」
「オマエの感度を上げる薬。これからどの程度の感度上昇率なのかデータを取るから、覚悟し給え」
「!!!」
「被験者はオマエ、実験者はワタシだ」

 それはつまり、私がこれからマユリさまに犯される、ということだろうか?
 胸を開かれたり、身体じゅうに触れられるのには(それが実験だと思えばこそ)耐えてきた。
 でも、直接的な行為に至るのには、抵抗を拭えない。


「人間と言うのは愚かなモノでネ、身体を交えるのには色々理由が必要なのダヨ」

 やっぱり、私はこれから食べられるんだ…。
 身を捩って逃げようとしたら、もう、四肢の自由は利かなかった。
 その代わりに、身体が焼けているんじゃないかと思えるほどの激しい熱が、お腹の底で渦巻き始める。

「動物であれば、何の理由も言い訳も要らないのにネ」
 事実、彼らのセックスはとても自由で、幸せそうではないカネ?

 彼の言いたいことが、分からなかった。
 逃げ出したい、ただそれだけ。

「ワタシはね、ヒトのそれが自己欺瞞や言い訳に充ち溢れたモノであっても、セックスは尊いと思うのダヨ」
 それが、今のような被験データを取れる状況のモノなら尚更ネ。

 マユリさまの言葉が頭の中でゆらゆらと揺れ始める。
 もう彼の台詞の半分も聞き取れない。


「そろそろ薬の効果が100%に近付く時間ダ。私の名前を呼べるカネ」
「…マ……ユ…っ」

 尖った爪先が脇腹を撫でる。
 それだけで、気が狂いそうな快感に全身の毛が逆立っている。

「効果は上々のようダネ」

 一瞬だけ、私の上でマユリさまの表情がやわらいだような気がして。

 次の瞬間、きゅっと痛いほどに胸の先端を抓まれる。
 意識を失いそうな激しい刺激に、嘔吐感が押し寄せる。
 自然に口が緩み、唇の端からは唾液が滴り落ちる。
 弛緩した身体に、もっと触れてほしいと思わずにはいられない。

 いままで感じてきた感覚は、一体なんだったのだろう。と、過去を否定してしまいたくなるほどの悦楽。


あっと言う間に

身体も心も沈んで

抵抗する気を失った――


コレが真の
愛情なのダヨ

(ワタシに抱かれるのだ、有難いと思い給え)
 

2009.01.15 mims
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