滲む、赤

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天然テクニシャン
+ 滲む、
*Zabuza Momochi*
 

 

 

脱衣所へ入ると、激しいシャワーの音が聞こえる。

「先に手洗いしておかないと・・・」
用意したバスタオルを置いてかわりに脱ぎ捨てられた服を拾い、そっと溜息を吐いた。

 

 
今日、急に訪ねてきた再不斬は、ひどく興奮しているようだった。
おそらく任務帰りなんだろう、その服は赤い色に染まっていた。

悪ぃ、とだけ小さく言って、彼はそのままバスルームへと消えてしまった。

 
再不斬が急に訪ねてくるのはいつもの事で、それにはさして驚かない。
ただ・・・

彼があんなにも血を浴びて帰って来たのは、初めてだった。

 

―――いつもよりも厳しい内容だったのか、それとも・・・

 

ふ、とドアを開けた時の再不斬の顔を思い出した。

厳しさと熱と、興奮と。色んなものがない交ぜになったような、そんな表情。
再不斬があんな風に仕事を引き摺ったままの感情を表に出すだなんて。

 

 

「・・・再不斬・・・」

 

思わず名前を声に出して、自分がきつく彼の服を握り締めている事に気付かなかった。

知らずに、胸の奥と体が、じわりと熱を持った事にも、

 
気付かなかった。

 
「・・・悪ぃ」

来た時と同じ台詞を言いながら、リビングへとやってきた再不斬。
でも、口調は幾分和らいでいて。

温かいお湯が彼の中の色んなものを洗い流してくれたのかもしれない。

 
「ううん。お疲れ様」
そんな彼にホッとして微笑んだ。

 
「簡単につまめるものだけ作ったけど・・・」
下にラフなパンツを履いただけの再不斬の体にどきりとしながら、台所に引っ込む。

あぁ、と言いながらわしわしと肩にかけたタオルで髪の毛をいて、一緒に台所へ来る再不斬。

 

しなやかに伸びる腕の筋肉と、ぱらぱらと散る水に艶やかに映える浅黒い体につい目がいってしまう。

今までに何度だって見ているはずなのに、なんでこんなにも・・・感じて、しまうんだろう。

 

「あ、とりあえずお酒、出すね・・・」
恥ずかしさをごまかすように冷蔵庫を開けようとすると、ああ、と小さく言ってひょいと手を伸ばしてお酒をとってしまった。

「俺がやる・・・」
お前はもう休めと、暗に言う彼のぶっきらぼうな優しさが嬉しい。

「ん」
横から伸びた逞しい腕に早まる鼓動を抑えつつ、小さく頷いてリビングへと戻った。

 

 

 

「・・・ふう」
再不斬の意外な表情を見た時から、自分まで熱が遷ってしまったように感じて。

「参ったなぁ・・・」
ソファにもたれて腕で目を覆う。

ふぅ、とまた一つ溜息をついて、今日は再不斬が来ているのに溜息なんてついてちゃ、とぼんやり思った。

 

 

こうやって目を閉じていると、帰ってきた時の再不斬の顔が思い浮かぶ。

何も言わないけれど、妙に雰囲気が鋭くて。
ほんの少しだけ赤みを帯びていた顔と、乱れた呼吸。低い抑えたような声音。

 

あぁ・・・そうか。

 
今の自分の気持ちが、すとん、と腑に落ちた。

 

あの時に、似ているんだ・・・

 

熱の篭った目線と、あがった息。

なまえ、と私の名前を紡ぐ掠れた声。

 

 

 
―――こんな事考えてるなんて。

 

はっとして体を起こすと、向かいあわせに座った再不斬がにやりと微笑んで私を見つめていた。

片手にグラスを持ち、くい、と口元へ流し込む様がやけに私をどきりとさせた。

 

「ご、ごめんっ」
ぼーっとしちゃってた、と言うと、あぁ、とだけ言って。
また、くく、と喉の奥で笑った。

「疲れてんじゃねぇのか・・・先に寝てろよ」
立ち上がって私の目の前へ立ち、髪の毛をくしゃりと撫でてくれる。

 

再不斬の時折こうやって見せてくれる、―――滅多に見せてはくれないけれど―――柔らかい優しさが大好き。

ん、と答えて見上げると、目元を緩ませた彼と目が合った。

 
ひやりとした感じだけれど、奥にじわりとした熱が篭っているような、そんな瞳。
微かに上げられた口の端。

・・・やっぱり、この人は綺麗だ。・・・それに。

色っぽい、というか・・・

 

 

 
「・・・っ」

 
彼を見つめたまままた変な方向へと動き始める思考に、さっと頬に赤みが差したように感じた。

再不斬の言うとおり、今日は先に休ませてもらおう・・・

 

私の髪の毛を撫でながら見つめている再不斬から視線を逸らして、慌てて立ち上がった。

「ご、ごめん・・・先に・・・」
寝るね、と言って脇を通り抜けようとした、その時。

 
「きゃっ」
強い力で肩を押さえられ、再びソファへと体が沈んだ。

 

「なまえ、お前よぉ・・・」
「・・・!」

私の上に体を覆い被せて顔を近づける再不斬が、少し意地悪な笑みを湛えたまま、静かに囁いた。

 

 

―――んなエロい面して、何考えてんだよ・・・?

 

 

私の事なんて全部お見通しで。

 
あなたの熱が遷ってしまった、て事も、きっと。

 

 

「・・・ここで、寝るか・・・?」

あぁ?とからかうように聞いてくる再不斬。

 

くやしいから、肩にかけられているタオルを引っ張って引き寄せ、

唇に噛み付いてやった。

 

 

 

 

++++++++++++++++++++
再不斬は表情が色っぽすぎると思う。

2009.02.11 by みゅう@センニチコウ
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