Exceed

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未だ寒さの残る夜。



月締めの忙しさも過ぎて、漸くのんびりとした時間を過ごす。



久しぶりに湯船に浸かったおかげで、がちがちに固まっていた肩の筋肉もほぐれたようだ。



「…呑みてぇ気もすっけどなぁ」



せっかく治まった肩凝りがぶり返すのは遠慮したい。



暖まった室内から台所に行くのも面倒だし、熱燗は明日の晩にしよう。



そう思って、火鉢の上から鉄瓶を持ち上げて茶をいれようとした時、するりと襖が静かに開いた。







天然テクニシャン


*Exceed*


―檜佐木修兵―






冷えた空気と共に、すうっと湯上りのいい香りが漂ってくる。



同じ石鹸を使ってる筈なのに、どうしてこうも甘くて心地好い匂いがするんだろう。



『お燗、してこようか?』



俺の手元を見てなまえが即座に言うけれど、すっかりその気が失せてしまったから、静かに首を横に振った。



『明日、非番でしょ?飲んでも構わないのに』


「呑むと肩の張りが戻っちまうからな。今夜は止めとくわ」


『そう?』



痛いなら揉んであげるよと言いながら隣に座ったなまえへ、湯呑を手渡す。



受け取ったその肩を無言で掴むと、華奢なそれは俺よりも強張っているように感じた。



「お前の方が凝ってるじゃねぇか」



湯、冷めてたか?



そう問おうとして、なまえの場合は熱い湯に浸かったぐらいじゃ解れないってことを思い出した。



『常にこの状態だもの。慣れてるから平気よ』



たまに四番隊でマッサージしてもらってるしねと、ふんわり笑うけれど。



顔にはアナタの方が疲れきってるでしょうにと言わんばかりの表情が見え隠れしている。



まぁ、確かに残業続きだったし、時には徹夜までしてた。



けど…今の俺が欲してるのは睡眠時間だけじゃねぇ。







「なまえ」


『ん?』


「こっち来て」



少し後ろに下がってから、膝をぽんぽんと叩く。



『なぁに?』


「ん―・・・ちょっと、足りねぇからさ」


『足りない?……やっぱりお酒…』


「違う違う。いいから、おいで」



言葉の解釈を違えて立ち上がろうとする手を掴み、くっと引っ張ると身体はあっさり腕の中に納まった。



『あっ…』



幾筋かのおくれ毛が漂ううなじに唇を寄せたまま、肺いっぱいに空気を吸い込む。



布越しに触れ合った肌から、じんわりと何かが流れ込んできて。



冷えた身体を暖かい布団に包まれた時や、いい酒をゆっくりと味わった時に感じる至福さとは異なる、満たされる感覚が気持ちいい。



「はぁ―…やっと落ち着いたって感じ…」


『落ち着いた?』


「足りなかったモンが、漸くいっぱいになった」


『それって、わたしが足りなかったってこと?』



背中を抱き込むように貼りついて首筋に擦り寄ると、髪の毛が擽ったいのか、笑いが漏れた。



「そ。なまえ不足…」


『栄養不足みたい』


「それよりも、もっと大事で必要だって」


『…修兵の場合、栄養も大事でしょ』



忙しくなると全然食べないんだもん。



拗ねた口調に思わず喉の奥でくつくつと笑ったら、くるりと振り向いたなまえに鼻を摘まれて。



「あにふんはお」



何すんだよと言ったはずの言葉は、空気が抜けないせいで妙な発音になっちまった。



『笑いごとじゃないのに…それにね』


「?」



顔の中心を掴まれたまま首を傾げると、すぐに鼻は指から解放されたけど。





口づけの直前、そっと囁かれた言葉に…





白旗を揚げるしかなかった。






天然テクニシャン


(わたしにとっては、何よりも大事で必要なんだから)






決めの言葉さえも、上回る彼女







End.

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【天テク:Exceed】
檜佐木修兵


色男ぶりも長続きせず(笑)


2009.2.4 by amaki

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