不器用。

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「・・・あ」

夕食の準備をしていた手を、ふと止める。
近づいてくる駆け足の音。

 
―――良かった。

今日も無事任務を終えたんだ。

 
一緒に暮らし始めてからまだ日は浅いけど、彼の帰宅はすぐに分かるようになった。

 

ほぅ、と肩の力が抜けて、自分が知らずに緊張していたんだと今更気づいた。

 
・・・でも、と。緊張が解けたことで感じた、ほんの少しの違和感。

 

 

天然テクニシャン
器用。+
*Might Guy*
 

 

程なくその足音は玄関の前で止まり、がちゃりと扉が開いた。

 
「ただいまー。帰ったぞー」
「おかえりなさい、ガイ」

濡れた手を拭きながら出迎えると、にこ、といつもの顔で笑って。
ああ、ただいま、ともう一度言った。

 

「まだ夕飯の準備してるの。先にお風呂に入ってきて?」
「ああ、分かった。ありがとう」

微笑むガイに私もにこりと微笑み返して。
そのまま、寝室へと向かう彼の後姿を見送った。

 

 

―――いつもなら。

 
帰ってくる時の足音はもっと軽いし、"ただいま"の声ももっと大きい。

きっと、任務で何かあったに違いない。
教え子達の誰かが怪我を負っただとか、任務の内容が・・・重かったりだとか。

 

ガイは、強くて―――そして、同じ位―――優しい。

ふとした事で一人で密かに心を痛めたり、そしてそれを誰にも悟られまいと笑う。

 
そういう時、何も出来ない自分が歯痒くて。
ただ、何も言わずに微笑むことしかできない私。

 

「・・・ダメだなぁ」

ふと零して、こんなんじゃいけない、と首を振る。
そうよ、せめて美味しいご飯を作って、お腹を満たしてあげなくちゃ。

―――私にできる事といったら・・・この位。

 



「あぁ・・・いい湯だった!」
先にすまないなァ、という言葉に振り向くと。

 

「・・・っ、も、もう!」
「・・・ん?」

ジャージの下を履いただけ、上半身裸のまま髪の毛を拭きながら不思議そうな顔のガイ。

「かっ、風邪!ひいちゃうでしょ!」
「何を言ってるんだ、家の中は暖かいし、それにだな」
「いいからっ」

早く上を着てきて、と顔を背けて言い放つ。

 

ガイの体は・・・その、綺麗、なのだ。

無駄な部分など無い、綺麗でしなやかな筋肉。

 

初めて見たとき、びっくりしたほど。
彼がそういった意味で初めての人では無いし、免疫が無いわけでもないのに。

彼の胸にそっと抱かれたとき、あの体に自分が抱きしめられているのだと思うと、神聖なものを冒してしまっているような気さえした。

 
それほど、綺麗な体。

 

 

―――って!私ったら何を!

ふぅ、と浅く呼吸をついて、顔の火照りを覚ます。

 

「おかしなヤツだなぁ。俺はすぐに風邪をひくほど柔じゃないと分かって」
「ガーイー!」

未だその場でがしがしと髪の毛を拭いているガイに、低い声を出すと、途端に寝室へ引っ込んだ。

 

 

「全くもう・・・」

はぁ、と溜息をついて。

 
「・・・あれ・・・」

 

いつの間にか先程までの少し重たかった気持ちが消えて、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる事に気付いた。

 

 

 

 
 

「はい。お茶どうぞ」
「あぁ、ありがとう」

にこりと笑うガイに私も微笑む。

夕食後。
忙しいガイとゆっくりできるこの時間が大好き。

 

「ガイ、明日は?仕事?」
「ああ、そうだ。昼からだけどな」
「ならゆっくり寝ていられるね」

 
私が言うと、あぁ・・・とガイは少し口を濁した。

 

「?」
「いや・・・昼前には家を出なけりゃならんのだ」

そう言ったガイは、ふ、と僅かに視線を揺らがせた。

 

―――隠し事をする時の、ガイの癖。

 

「ん、分かった」
「あぁ・・・すまんな」
眉尻を少し下げてはは、と笑うガイ。

 

「ガイは休みの日でも早起きだからねー」
私も早起きには慣れっこよ、と笑ってみせる。

そんな私にホッとしたような顔を一瞬したガイに、胸の奥がつきん、と痛んだ。

 

 

「・・・・・・」
何も、聞き出せない自分。何があったの、の一言が言えない自分。

なんて情けないんだろう。
ガイの辛さを少しでも分かち合いたい、なんて思うのは自分の我侭だと・・・そんな風にどこかで思っているから?

そういう考えも思えばとっても卑屈だな、と、ほとほと自分に嫌気がさす。

 

 
「・・・あ。そ、そういえばね美味しいお煎餅を買ってきたの」
自分の落ち込んだ気分を隠すように、立ち上がった。

 

「・・・なまえ」
「何・・・て、わ・・・」

 

急に、掴まれた腕。
次の瞬間には、彼の腕の中に閉じ込められていた。

 

「な、何?どうしたの、ガイ・・・」
「なまえ・・・すまない」

思いも寄らない言葉を口にするガイに、驚いて体が固まった。

 

「ガ、イ・・・?」
何で、謝るの・・・?

 
不安に駆られてそっと目線を上げて、彼の表情を盗み見ると。

「すまない・・・」
なまえ、と自分の名前を口にするガイは、とても辛そうな顔をしていた。

「なまえにそんな辛そうな顔をさせているのは・・・きっと、俺なんだよな」

ぽん、と頭に乗せられる温かくて大きな掌。

「え・・・っ」

私、そんな顔、してるの・・・?

 

「お前にそんな顔させたいなんて、これっぽっちも思っていないのに、なぁ・・・」
ダメな男だな、俺は。

はは、と力なく笑うガイになぜか急に涙腺が緩んだ。

 
―――そう。ガイは・・・そうやっていつも・・・

 
「そんなこと、ない・・・私こそ・・・」

 
―――私にそっと手を差し伸べてくれるんだ。

 

 
ごめん、と小さく呟いて、ぎゅ、と彼の胸に顔を埋めた。

 

 


 

聞けば、今日の任務でテンテンちゃんが命には関わらないものの相当大きな怪我を負ったらしく。

「女の子だろう、体に傷が残ったらと思うと・・・」
「でも、いいお薬があるから・・・きっと傷跡も残らず綺麗に治るわよ」
「ああ。俺もそう信じているが・・・」

もっと、俺が気を配っていれば・・・と零すガイ。

 

「・・・は、ははっ。俺もまだまだって事だな!明日からもっと修行に励まなくちゃぁな!」
「じゃぁ、お弁当沢山作らなくっちゃね」
そう言って微笑むと、ガイもいつものように明るい笑顔で応えてくれた。

 
「おう、頼むぞ!・・・いや、待てよ・・・」
「?」

「明日からなんて生ぬるいか・・・!よしっ!なまえ!」
「は、はいっ」
思い立ったようにソファを立つガイに気おされてどもる。

 
「俺は!今から行って来るぞ!思い立ったが吉日だっ!」
「え、えぇ!?」

 

本当に家を飛び出そうとするガイにしがみ付いて宥めて、必死に思いとどまらせる。

 

「お願いだから!明日からにしよう?ね?」
「んんー・・・なまえがそこまで言うならば・・・」

抱きつく私を見下ろして、本当に残念そうに眉尻を下げるガイ。

 

「明日・・・私も一緒に、病院へ行くから。ね?」
それからでも遅くないから、と言うと、一瞬驚いたような顔をして。

 
「あぁ・・・そう・・・そうだな」

そうしよう、と温かい笑顔がゆっくりとガイの顔に広がっていくのが見えて、

私の心にも同じものがじんわりと広がった。

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++
鈍感そうで敏感。でも鈍感。←
ガイは自然に周りを笑顔にしてくれそうです。

2009.01.30 by みゅう@センニチコウ
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