series 楽天的落下 | ナノ

  半径10m立入禁止


 行ってらっしゃいませ、檜佐木副隊長。やたらに仰々しく見送られて隊舎を出たけれど、書類を持参するというのは半分以上口実。
 俺が六番隊舎に向かう理由の大半は彼女に会いたいから、だったりする。バランスの取れた身体つき(特に胸の谷間)と、あの可愛い顔を見られるなら、午後からの執務も頑張れるってモンだ。
 それとおなじ理由で十番隊舎に向かうこともある訳だけれど(だって乱菊さんのあの胸とエロい顔はやっぱり男のロマンチシズムの塊だと思う)、それは今のところは置いといて。


 近付いた六番隊舎からは、情事の始まりを告げるようなくぐもった二つの声が聞こえてくる。すげえ場違いだけど。
 他人の色恋沙汰をのぞき見すんのもたまには悪くねえかもと、好奇心から、つい足を止めた。

「……ヤダっ、阿散井くん止めて」
「ダ―メ!逃げんなっつうの」

 なんだよ、恋次の奴。こんな昼間っから隊舎内でお楽しみってか、さすがエロ犬。なんて、呑気に盗み聞きを楽しもうとしたのもつかの間。

 あ…れ……?
 この声ってもしかして彼女――


「いや、っ。お願い、止めてってば」
「俺から逃げれると思ってんのかよ」
 力で男に敵う訳ねえだろうが。

 相手の女が誰なのかに気が付いてしまったら、いてもたっても居られなくなった。
 じっとしていられない気持ちに同調するように、身体の中では血液がぞわりと温度を上げている。

「ほら。口、開けてみろって」
「んんー…っ、無理だよ。そんなデカいの」

 く、く、くち…って!?つまりはアレを彼女の可憐な口にって、そういうことなのか?その場面を想像するだけで、臍の裏辺りが過敏反応しているけれど、俺は悪くない。男として正常な反応にすぎねえんだから。

 それにしても。
 何て羨ましいことしてくれてんだ、アイツは。しかもデカいって、二重に羨まし過ぎるじゃねえか…阿散井恋次!!

「大丈夫だっつうの、いつもそん位開けてんじゃねえか」
「阿散井くんのバカ…、そんなことないってば」

 いつもって…お前らはもう、そんな仲な訳?恋次の野郎、俺の恋に協力してくれるっつうのは嘘だったのかよ。
 それよりも、俺はこの行方を黙って見守ってて良いんだろうか?仮にも惚れた女が別の男の毒牙にかかろうとしてんのに。
 人として、ここはやっぱり止めるべきだよな。つうか、黙って見過ごすなんて無理だし。嫉妬と羨望で気が狂いそうだ。

「せっかく檜佐木先輩のために練習する気になってんだろ?」
「そう…だけど」
「俺が善意で付き合ってやってんだから、試しに喰ってみろって」
「んんん…っ!」

 俺の為?俺のための練習で、彼女は恋次のアレを口でアレしようとしてんのか?んな、馬鹿なことしなくていいのに。
 むしろ無垢なままで……俺が一から十まで俺好みに仕立ててやる。とか考えてたら、鼻血出そうになってくる。


 気が付いたらノックもなしに、執務室の扉を勢いよく開いていた。

「阿散井ので練習する位なら、俺のを直接くわえてくれ!」

 って、あれ?何か雰囲気全然違うんだけど。
 俺、間違った?


 目の前には、驚いた表情の恋次と彼女。見開かれた瞳が4つと、ぽかんとあいた口が2つ。
 彼女の唇はつやつやと光っていて、確かにいまにも卑猥な形のものを恋次に突っ込まれそうになっているけど。それは俺の予想していたアレとかではぜんぜんなくて。
 頼りなげに箸に摘まれて、彼女の口の前に差し出されているその物体は…

 ――ウインナー?

「どうしたんすか、センパイ?」
「あ…え……えーっと、六番隊行きの書類をだなあ」
「ご苦労様っす。いやね、」
 こいつがあんまり先輩の好物は何かって聞くから、ウインナーが好きらしいって教えたんすよ。そしたら早速作ってきたから味見しろって言われて。

 矢継ぎ早に喋る恋次の隣で、彼女は頬を染めて俯いている。開いた死霸装の胸元からは、真っ白な肌と吸い込まれそうな谷間。

「へえ―…」
「そうなんすよ。市販のヤツ買ってくりゃあいいのに、それじゃ気がすまねえって」
 なんと腸詰めするところから自分でやった力作だっつうんで、そんな健気な話聞かされたら協力したくなるじゃねえっすか。で、毒味役をかって出たって訳なんすけどね。センパイ、聞いてます?

「へ…ああ、聞いてる」

 彼女に見惚れて、半分位は聞いてなかったけど。キャンキャン吠える犬には鳴かせておけばいい。

「でね、味見してみたらこれがマズイのなんのって。言葉にならねえ位のモンなんすよ」
「阿散井くん、酷いっ!そんなはずないってば」
「だからお前も自分で喰ってみろって、さっきから言ってんじゃねえか」

 そう言って恋次が突き出したウインナーが、彼女の唇に近付く。薄く開いた口から覗く小さな舌先は、肉片にいまにも触れそうだ。

「っ…イヤ」
「何でだよ、口開けろって」

 ひ…卑猥だから、その光景。脳内で勝手に別のものに変換されて見えてしまう。なんか俺、頭くらくらしてきた。



「ところでセンパイ」
「ん?」
「ここ入って来るなり叫んでたのって 何すか」
「…や、別に」

 やっぱり聞かれてたか。あんだけ大声で叫んでたんだから当然といえば当然なんだけど。忘れてくれ、っつうのはムシが良すぎるよなあ…。

"阿散井ので練習する位なら、俺のを直接くわえてくれ!"って、言ったっすよね」
「…ぐっ」
「あれ、どういう意味すかァ?」
 お前も聞いたよな。

 恋次の奴、明らかに面白がってやがる。足でも踏ん付けてやりてえが、間にいる彼女のせいで近寄れねえ。

「う、ん」
「あ、あの、あれは……ちょっとした勘違いっつうか」
「にしても、"俺のをくわえる…"っつうのは」
 昼間の執務時間中に出していい台詞じゃねえっすよね。どーゆうイミかなあ?

 ニヤニヤ笑いながら言葉を続ける恋次。お前、やっぱそれワザと言ってんだろ?

「………」
「もしかして、檜佐木副隊長は私たちが隊舎でいかがわしいことをしていると誤解を?」
「いや……まあ、でも」
 いつもそれくらい口開けてるとか、練習台になってやる的な台詞が聞こえたら、誰だってそう思うだろう?

 開き直って低く囁けば、返ってきたのは恋次の馬鹿笑い。

「だってこいつ、飯食うときも俺を叱り飛ばす時もすげえ大口開くんすよ」
「阿散井くんのバカっ!」

 ほらね、こんな具合に。と、開かれたままの形で固まった彼女の口元を指差している恋次は、今まで見た中で一番楽しそうな表情。
 確かに、形の良い口が大きく開いている。咽喉の奥まで見えそうなその姿すら可愛いだなんて、見惚れてる俺はやっぱバカなのかも。

「で…センパイ、一体どんな風に勘違いしたんすか?」
「そ、それは…」

 会話の続きを促すように、俺に注がれる鋭い視線。


「……お前のウインナー的なモンを彼女が口でアレ……っ!!」

 言葉の途中で、思い切り臑に走る激痛。マジで死ぬほど痛い、弁慶の泣き所っつうのは本当らしい。
 見下ろせば頬を薄桃色に染めた彼女の爪先が、俺の下肢にクリーンヒットしていた。



半径10m立入禁止

だって、本気で羨ましかったんだ


 やっぱり彼は変態。だけど、それでも良いと思ってしまうのは惚れた弱みってやつなんだろうか――


2009.04.11

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