ふわり漂う





甘い秋の香りが





微かに残る記憶を蘇らせる





あれは、ただの夢・・・?









予感〜夢のあとさき〜









夕暮れの河川敷を歩く。



日中の暑さは鳴りを潜め、涼しい風に混じる甘い香り。



乱れた髪をそっと押さえようとしたら、腕の中に温かく心地良い重みがあることに気付いた。



歩みを止めて下を見ると、そこにはすやすやと寝息をたてる小さな赤ん坊。





あれ・・・・・?





よく見ると、淡いピンク色の産着に包まれた赤ちゃんの顔立ちは、愛しい人にそっくりで。



じっと眺めていると胸の奥からじわじわと、例えようのない嬉しさみたいな物が湧き上がってくる。



口元を綻ばせたまま動けずにいたら、オレンジ色の陽射しがふっと翳った。



「眠っちまった?」



上から降ってきた柔らかな声に目を上げると、そこに居たのは腕の中の赤ん坊と瓜二つの顔。



『・・・・・うん』



発せられた言葉は間違いなく自分の物なのに、何故か違う場所から響いた気がした。



「いま寝ちまうと、夜中に寝てくんねぇんだよなぁ」



困った声音をしているのに、可愛くて仕方がないって表情をしてる。



くすくすと笑いながらその顔を見上げたら、頬にそっと唇を寄せられた。



「さっ!帰ろうぜ!」



こくりと頷いて足を一歩踏み出した時、ふわりと体が浮いた。









『え・・・・・?』



一瞬の浮遊感の後、辺りを見回すとそこは見慣れたマンションのキッチン。



『なん、で・・・?』



腕の中にいた赤ん坊は影も形もなく、手に握られているのは吸い口の付いた小さな哺乳瓶だけ。



テーブルの上にも同じ物がもう一つ置かれていて、両方とも作られたばかりのミルクがたっぷり入ってる。





・・・・・どうして2つ、あるの?





赤ちゃんは一人のはずなのに、と疑問を浮かべていると、リビングルームからくぐもった声が聞こえてきた。



持っていた哺乳瓶を置いてから、そっと隣を覗いてみる。





え・・・・・?





見覚えのある室内とは少し配置の違う家具の間、わずかなスペースに敷かれた小さなマット。



その上に転がる大小様々な物体の数は4つ。



ワンピースを着た幼女の髪色は自分のそれと同じで、顔立ちはやっぱり愛しい人にそっくりで。



端っこに寝そべった一番大きな人物のミニチュアみたいな、淡い水色の衣に包まれた赤ん坊が二人。



音を立てないようにゆっくりと近付いて、子供たちと同じ・・・否、それ以上に安らかな寝顔を覗き込んだ。



さらさらの髪を撫でながら眠る姿を見ていると、幸せな気持ちでいっぱいになる。



目を閉じて深呼吸すれば、甘い香りが胸に満ちて。



ほぅ・・・と息を吐いた瞬間、体が浮き上がる感覚が蘇った。









あぁ、これは夢なんだ。





私の望んだ光景、なのかな。





ううん・・・・・違う。





あれは、いずれ訪れる未来。





きっといつか、あの子たちに必ず逢えるわ。





それまで、待っててね。









『・・・・・ん』



目が覚めて見えた風景は、いつもと変わらないものだった。



温かい腕は外界の全てから守ってくれてる・・・そんな安堵感に満ちていて。



ちょっとだけ温度の高い身体に擦り寄いながら、さっき見た夢を反芻する。



『早く逢いたいね・・・』



ねぇ、キバ?



3人は子供が生まれるのは確実みたい・・・。



小さく呟きながら、ほかほかと暖かな空気を吸い込んでいると、また眠りの淵に誘われた。









夢の欠片を呼び戻すのは





ふわり漂う





甘い、金木犀の香り





End.

-アトガキ-
【mon amour,nara】mims様より、連載『色付く世界』キャラ設定をお借りして書いたキバ夢でした!!
一応設定使用許可はずっと頂いてるんですが・・・だ、大丈夫だよね?みむちゃん?汗
完全に頭に浮かんだまま書いたから、短いわ名前変換ないわですみません(>_<)
前スピンオフ『いじわる』の翌朝としてお読み頂ければと思います(*^^*)

ここまで読んでくださったお客様、ありがとうございました♪

2008.10.19 by.amaki


天姫さまより頂いた、連載のスピンオフ作品です。

6月に書いて下さったのに、私がなかなか本編を進められなかったせいで、半年以上経ってからのUPになってしまいました(汗)

お読み頂いた感想は是非、天姫さまへ直接お伝えくださいませ。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -