それが欲しい、それはいらない
攻められんのに慣れてへんからかなァ、ちょっと攻められただけで、こう、クる。ほんまヤバいことになっとるやんけ。
唇を繋げたまま、煮えそうな頭。その中では、欲望と愛おしさのないまぜになったものが渦巻いている。どうすればいいのか分からなくて、乱れる脳内はまるで何かの熱病のよう。
またお前の中に入ることでしか、熱病のようなこの感覚を解消できない。なんて、勝手な理屈だ。結局はやりたいだけなん違うか、と警鐘を鳴らすはずの理性は、とうに焼き切れている。
俺は発情期のガキかっちゅうねん。
「ふっ、くるし…真 子」
「そんなん、言われて 止めれる訳…ないやろ」
意図せず途切れる声を誤魔化すように、唇を貪った。
相変わらずお前の細い指が、俺をゆるやかに締め付けている。唇が触れ合うことで、俺を嬲る掌の感触をより強く感じる気がするのは、ただの気のせいなんやろけど。触る単体の行為でもやばいのに、そこにキスが合わさると殺人的やねんて。
それってやっぱり、キスに感情が引きずられるからなんやろうか。
唇から入り込んでくるのは、頭が真っ白になりそうな感覚。腹の底からむずむずと這い上がってくるむず痒さ。それが身体の中で混ざり合って、身体の芯で弾けそう。愛おしすぎて、気持ち良すぎて、息が上がる。
くちゅ、濡れた音を立てて食まれていた下唇が空気にさらされる。あー…、気持ち良かったのになんでやめんねん。
って、キスを仕掛けたのは俺のほうやのに、何か主導権握られてんちゃう?悔しいなァ、思た瞬間に触れてた指先まで離れていく。
「……っう!」
その間際、わざとらしく爪で先端をかすめて。ひどく鮮明な快感を俺の中に還す。
小さい手に包まれていた微妙な感覚が気持ちええのに。でもその気持ち良さも単なる物理的刺激によるモンじゃなくて、お前に触られとるって意識することによる精神的な刺激のせいや。
単純な快楽はもちろん摩擦によって与えられるものには違いない。でも、摩擦を与える対象が誰なんかによって、同じ行為やのに快感の振れ幅はめっちゃ差があるんやと、混濁した脳が改めて確認したりして。
だって俺、いま なんかめちゃめちゃ気持ち良くて泣きそう。
ひとりでやるんとは全然違うのが当たり前やとしても、この、どうしようもないほどの感覚はいったい何やねん。かすめて離れていった指先の温度も、意地悪な触れ方も、勝手に肌がリピートするみたいにいつまでも余韻がのこる。
しばらくその感じを堪能して、そろそろ攻守交替やなァ、なんて気ィ抜いてたら、いつの間にかお前の顔が見えへんようになってて。ちゅぷり、不意打ちで熱い粘膜に捉えられた。
「そんなんせんでエエって」
言葉とは裏腹にうねる腰。ねっとりと絡みつく舌に合わせて、舐めあげるように視線が俺の目を捕まえる。
明らかに気持ちよがってるよね、それって。と問いたげな、艶のある視線。その後に続く声は、昨日からずっと喘ぎ続けているせいなのか、不自然に掠れている。
「でも……これは?」
「気に、すんな っちゅうねん」
途切れる声。
自分が今どんな状態になってんのかなんて、わかってんねんから。これは、とか聞くな。そのハスキーな声で聞かれたら、なおさら…クる。
「しん、じ……」
名前呼びながら、先端から滲み出ている液体を掬われて。ピンク色の唇の隙間を出入りしている自分の肌が驚くほど卑猥や。ほんまにあかんて、意識飛びそうになるから。
「っく…あ… っ」
なんちゅう声出してんねん、俺。
「らって、 真子…が」
「エエって、ほん ま……っぅ」
だってじゃないやろ!!と思うのに、最後まで言葉も続けられへんなんて、本気でヤバイ。短く吐き出す息は、自分でも分かるくらいに熱を帯びている。
「嘘 つき」
「ウソ ちゃう…わ」
お前にそんなんさせたないねん。
って言葉で言うよりも有効なんは、やっぱり攻めることやんなァ。
快楽にふるえる腰と、ひきつれかけている脚を強引に動かして。無理にお前から身体を引けば、口端から垂れる唾液。つーっと糸を引く透明な粘液。ほんまに厭らしいわ、それ。
視覚刺激でイきそうになるなんて、それこそ思春期のガキやんけ。
「っわ、ちょっと…まだ」
「もう待てるか!お前のせいや」
細い身体に覆い被さって、唇を繋げる。舌と舌を絡めて、吸い上げて。その度に身体の中は滾っていく。もう無理。止めてって言われても、絶対無理やから。
いったい何度目なんや、エエ加減にせえよ、俺。申し訳程度にツッコミ入れても、なんの抵抗にもなれへんし。
どくどくと脈打つ鼓動。
彼女の指のなかで、俺がぴくりとふるえた。
それが欲しい、それはいらないそろそろ俺が攻めさしてもらうで
これ以上ヤられたら、ほんまにあかんねんて。お前のこと啼かせへんかったら、俺が満足できひんやろ。