いつもの朝
布団のなかでゆるりと目をあける。時計の針はまだ早朝。
目覚まし時計のなる前に目が覚めたら得した気分になるのは、咎められずにすきなだけ彼を眺めていられるから。
じろじろ見んなっちゅうねん、恥ずかしいやんけ。そんな風に照れる彼も大好きだけど、出来るなら飽きるまで眺めていたい、と思う。
軽く首を動かせば、瞳に映るのは真子の寝顔。
起きてる時はあんなに騒々しいのに、いまの彼はただ端正な顔を無防備にさらしてそこにいる。ちらりと見える白い歯すら、綺麗だ。
(おはよ、しんじ) 口パクで伝えて、起こさないように髪に触れる。なめらかな指通りが心地いい。見つめた視界には閉じた瞼、眼球の動きに応じて時折ぴくぴくふるえるのすら愛おしいと思った。
長い睫毛、通った鼻筋に薄い唇。呼吸のたびに上下する胸板、昨夜の名残で色素の薄い皮膚は剥き出し。そこかしこに散った赤い痕が、自分の付けたものだと思えば、ひどく厭らしい。
開いた口内が渇くのか、嚥下にともない動く喉仏。なめらかな皮膚に覆われたちいさな突起に触れたい、と思う。
ごくり、音を響かせながらの小さな動きはやけに艶っぽい。
(こうして黙ってると、ほんとキレイだよね…真子って) ちいさくため息を吐き出して、見つめる。触れそうで触れない距離、シャープな頬のラインに合わせて掌を翳す。じわり、空気中を介して真子の体温が伝わる。
見つめる。浮き出た肩の骨を、細いのに筋肉質な腕を。
昨夜はこの腕に抱かれていたのだと思えば、それだけで身体の奥のほうがきゅうっと締め付けられる。
細い手首の下、すらりと伸びた指を見つめる。
この綺麗な指が私に触れ、体内の襞を一枚一枚ねっとりと刔るように嬲って。粘膜を掠め取り、頭の中が真っ白になりそうな感覚を与えてくれたのだと。
視線を持ち上げて、再び整った顔を見つめる。見つめる。
いつまで眺めていても飽きない気がする。きっと、見つめていられる時間の長さが、愛情の深さなんだ。
(どうしよう) この人が好き過ぎる。
「なにがやねん」
「しん…じ?」
「さっきから何じろじろ見てんねんな?」
「起きてたんだ」
「そないに熱視線注がれたら、暑うて寝てられへんわ」
ニヤリと歪めた口元。
誘うようにするりと差し出された舌の上、小さなピアスが朝陽にきらりと光った。
いつもの朝(布団から出たないな)
見つめとったんは、そういうことなんやろ? 至近距離の肌は欲望を浮かせ泡立って。組み敷かれる重みが予感させる、一日のはじまり。