論 外 !

学生の間はクラブ活動なんてめんどくさいことは一切せずに同じような非活動的な人間たちと燻りながら過ごすって決めているの。もちろん勉強も進学も無理してするつもりないです――自信満々で放たれた彼女の言葉にため息がもれた。

「なんだよ、それ」
「ゴメンネ先生」
「いや可愛く謝って済むような問題じゃねえから。分かってる?お前がいま話してる銀さんは一応教師なんですけど」
「全然教師らしくないけどね」

確かに。煙草ふかしながら女生徒に向かって説教垂れてる姿っつうのもちょっとマズいかと火をつけたばかりの長い煙草を灰皿に押し付けて咳ばらいをひとつ。

「担任としてはお前の成績を管理する責任があるわけだし、それにな今は面倒臭くても大学入ればバラ色のキャンパスライフが待ってるわけだしー」
「先生もそうだった?」
「そりゃもうモテモテで大変だったに決まってんだろ。いや銀さんは今でもモテモテだけどねー」

語尾を伸ばすこの喋り方も教師らしくねぇよなと自重しつつ頭をがしがしと掻きむしる。雨模様のせいかいつもより天パの乱れが激しい。なんで俺は天パなんだ。どうでもいいことに一瞬だけ思考を奪われた途端、やけにか細い声が俺の名を呼ぶから心臓が思春期の少年みたいに騒ぎ出す。

「銀八…」
「ん?」
「そんなに大学行って欲しい?」
「そりゃそうだろ?一般的に高校の担任としては進学率とかクソみたいなモン気にしなきゃならねえし、お前だいたい成績だって元々悪くないのに何で進学しねーとか訳の分かんねえこと…」
「だって」
「そんなに俺を困らせたいんですかー」

俺が校長にゴチャゴチャ言われて困ってんの、ちょっとくらい助けてくれてもいいんじゃないの?そりゃお前みたいな娘が大学行ったら周りの男どもが放っておかないだろうし、それはちょっと銀さん個人的には嫌だけど。いやかなり困るけど。でも教師としては――

「でも無理」
「なんで…!?」
「私には別に夢があるから」
「夢なんて大学行った後でも遅くねえだろ、な?」

頭をくしゃりと撫でれば上目遣いで見上げられて、再び心臓が騒いだ。

「………」
「黙ってても仕方ねえだろうが。いますぐ叶えたい夢があんなら、俺が納得出来るように説明してみろ」

まあ卒業すりゃ自重する必要なんてねえんだし、ストーカーばりにお前をがっちりマークして恋する乙女の兆候が見えた途端に相手のあることないこと吹聴して100%幻滅させてやる。赤い糸が張り巡らされそうになった瞬間に切って切って切りまくってやるからいいけどね。陰湿な工作活動?それがなんだ。それくらい銀さんは覚悟してるってこと思い知れ。

「今は言えない」
「は?」
「今は言わない」
「なに我が儘言ってんの?」
「早く言えるようになりたいから進学しない…!」
「ますます分かんねえんだけど」
「………ばか」
「教師に向かって馬鹿とはなんだ馬鹿とは」
「気付けばか」
「また馬鹿っつったのはどの口だ」
「ばかばか。銀八のばか。鈍ちん」
「こら!黙れっつうの」

頬っぺたを摘んで左右に引っ張れば、ほんのり染まった顔と潤んだ目に心臓を打ち抜かれた。

「……………先生が付き合ってくれるなら大学行ってもいいよ」


論 外 !
ばっか!お前そういうことは男に言わせろっつうの!
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2010.10.27
はやく坂田さんになりたいな、とか。
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