誘因メトロノーム

 不思議なもので、ある程度の知的レベルに達した女の子ってのは、意地悪な男の方が好きらしい。
 適当な位置で座標軸をとる(X軸に俺の猫かぶり度、Y軸に女の子の興味の度合って感じで)。
 俺が本性を露わにするほどに、それに比例して(ある種の女子限定だけど)視線に孕まれる熱が上がる。
 面白いくらい顕著に(座標の中の点は、綺麗な放物線を描く)。



「山崎くん」
「…何?」

 "優しい人が好きなの"なんて、表面的なことしか見れない頭の弱い子には興味ない。
 面倒だから普段はいい人の仮面を被ったりもするけど、それで勘違いされても困るんだよね。
 俺の見たところ、君は顔立ちが整ってるだけじゃなくて、頭の中身もそこそこイイらしい。

 だから、
 俺がちょっとだけいつもの仮面を剥いだら、きっとすぐに気付く…

 でしょう?



「ちょっと聞きたい事があるんだけど、今いいかな?」
「手短に聞いてくれるんなら、ね」

 教室の喧騒の中で、まるで俺の小さな声しか聞こえなかったように、大きな瞳が見開かれて。
 俺の言葉がいつもより低温だって、ちゃんと感じ取ってくれたんだ?
 俺の表情がいつもよりさめている(でも、心の中はいつもよりずっと熱い)って、伝わったみたいだね。
 そういう敏感さは、すごく俺好み。嬉しくてつい、唇が意地悪に形を変える。



「さっさと言いなよ」
「…っ」

 君の可愛い顔が微かに暗く歪んで。
 その表情が、堪らない。もっと苦しい顔を見たくなる。



「あ、の……」
「だから何?」

 俺が欲しいのは、君(私欲にまみれた偏差グラフの、限りなく高位にポイントが在るのを、有り難く思いなよ)。
 ちょっと賢くて、どうしようもなく可愛くて、感受性の鋭い君だけが欲しい。


「もしかして、ここじゃ言いにくい?」

 ワザと顔を近付けて囁く。
 耳朶にかかる吐息は、きっと言葉とは裏腹に高温で。

 振り子が揺れるみたいにぐらぐらと君の感情が揺れてるの、手に取るように分かるよ。
 知性と不可解な欲がせめぎあう様子が。


「や、まざき…く」
「ほら、おいでよ」
「待っ…て、どこ……」
「黙ってついて来れば分かるから」

 躊躇しながら、手を差し伸べる君は、ちいさく震えていて。
 大丈夫、君のその反応は変じゃない。理解出来ないものに惹かれるのは、賢い人間の正しい欲望だよ。


「ね、どこに行くの?」
「聞きたいことがあるのは、君の方だろ?」

 それでも俺の掌に繋がれたままなのは、案外素直だからなのかもね。
 疑念を抱きつつ従順だというアンバランスさも、理性と本能の匙加減も、絶妙。


 空き時間の音楽室で、細い手を引いて、グランドピアノの下に潜り込む。

「ここなら話せる?」
「もう…忘れちゃった」
「じゃあ、」

 両頬を掌で包み込むと、瞳を見据えたままにやりと笑った。


ロノーム
(早く俺に堕ちなよ…)
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