ちょっとだけ黒い彼?
あ、
まただ…――
ぞくり、背筋が凍りそうな独特の感覚。
第六感が騒ぐというのは、きっとこんな感じなんだろうけれど。
この類の感覚が研ぎ澄まされたのが、もし監察の仕事をしているせいなのだとしたら、私は選ぶ職業を間違えたんだ。
後ろから感じる、執拗な視線。
ふつうの女の子なら気付かずにスルーしてしまう程度の違和感に、いちいち反応してくれる自分の神経をちょっとだけ憎んだ。
ちょっとだけ黒い彼?振り向いてもきっと、誰もいないんだろうけど。
立ち止まると、たしかに何かが息を潜めている気配。
ふたたび背筋を這い上がる鈍い悪寒に、冷汗が滲む。
全く、なんなの。
私なにか恨まれるような事したかな?
せっかくのオフなのに(真選組はああ見えて結構忙しくて、完全オフなんてすごい貴重なのだ)、全然楽しめないじゃないか。
見られている。それも、多分男に。
"見られる"、というよりも、"舐められる"ような、そんな湿ったやり方で。
こんな事なら、誰かについて来て貰えば良かった。
山崎さんはきっと今頃、ミントンに昂じているだけに決まっているし、声を掛ければ優しい彼は断ったりしないはず。
せっかく、一緒にお出かけ出来るチャンスだったかもしれないのに…失敗した。私と山崎さんが揃って休日になるなんて、滅多にない機会なのに。
小さくため息を吐き出したら、ふっ、と気配が消えた。
その隙に、早足で先を急ごうと踏み出したら、何かに躓いて。
イタタタ…――
見上げた視界は真っ逆さま、またやってしまったらしい。
振り返ると、見事に散らばったバックの中の物が道路に散乱している。
なんで、こんなにそそっかしいかな。私。
泣きそうな気持ちで立ち上がろうとしたら、やさしく腕を引かれた。
「……ザキさん?」
「ほら。さっさと立ちなよ、せっかくの可愛い服が台無し」
膝に付いた汚れを、ささっと掃ってくれる彼の手。
意外にもすらりと伸びた指は、遠慮なく私の身体にふれる。
「あの、ミントンは?」
「今は、そんな事どうでもいいじゃない」
「はい…ありがとうございます」
次々に散乱したものを拾い上げる彼の、俯き加減の顔。
山崎さん、やっぱりじっと見ると綺麗な顔立ちしてるよね。いつもは沖田さんや土方さんの陰に翳んじゃってるけど。
「何?」
「え…」
「そんなにじーっと見られると、気になるんだけど」
「あ。すみません」
拾った物を納めたバックを手渡される瞬間に、山崎さんの目が私から動きを奪う。
さっきまで舐められていた男の視線とは、ほんの少しだけ違うけれど。
背筋を這い上がるこの感覚はなんだろう。
「謝らなくてもいいよ」
「そう言えば、ザキさんは何でここに?」
小さく歪んだ唇。
「そんな事、気にしなくていいから」
「でも、お休みと言えば、ミントンでしょう?」
「俺がここに居るのは不満?」
「いえ、そんな 」
「じゃ、嬉しい?」
「……」
黙り込んだ私に向けられる、歪んだ笑顔。
(困った男の掃除…かな)「ザキさん、いま何て?」
「別に。さ、行こうか」
差し出される手を取りながら、頭のなかは大混乱。
急に降って沸いたこのしあわせ、私 黙って受け入れてもいいんですか?
君がそんな風にいつもと違う可愛い恰好で出かけたら、気になって当たり前でしょう?
ただでさえ鈍感で、ストーキングされてる事にもなかなか気付かない君だから(勿論、ストーカーってのは俺じゃない)。
ついでに、君にしつこく付き纏うあの男も始末しときたかったしね。
これからは、俺の傍から離さないよ。
ちなみに
ちょっとだけ黒い彼?(休日が重なったのも偶然じゃないけど)