夢なら醒めない、で?

 真選組に入隊してもう数年になるけれど、飲み会のたびについ呟きたくなるのは毎回同じこと。

 ――あなたたち本当に警察ですか、江戸の治安を守っているのは本当にこんなイカれた酔っ払いたちの集まりなんですか、酒の席では無礼講と言ってもこれはやり過ぎでしょう流石に。「飲み過ぎてアル中になったらマズイよねぇ」ってどの口が言ってるんですか。これじゃまるでどこぞの酒池肉林の地獄絵図じゃないですか。信じたくありません私…――

「今年も最初っからすごいですね」
「そうですねィ」
「お前もほどほどで部屋引き上げろ。アイツら男女関係なく飲ませんぞォ」

 土方さんの気遣いに「そうします」と肩を竦めて、開始1分ですでに熱気を帯びはじめた会場にため息をもらした。

 毎度の宴会でそうなのだからいい加減慣れればいいのに、どうしても慣れることが出来ないのは私が唯一の女隊士だからだろうか。
 そんな真選組の飲み会のなかでも一年で最も荒れる、もとい、盛り上がるのがこの新年会だった。
 たいていは宴会開始5分以内でゴr…いやいやいや局長が脱ぎ始める。開始十分で全裸の可哀相なゴリラの出来上がりだ。他の隊員たちもそれに釣られるように乱れ始めるので、私は巻き込まれないように必死になる。
 そして学んだ――副長と沖田隊長の傍にいるのが一番安全だ、と。

「スゴ。局長もう上着脱いでますよ」
「まだまだこれからですぜィ」
「付き合いきれない、ですよね土方さん」
「………」

 珍しく反応のない彼を不審に思って見上げたら、すっかり出来上がった副長が目を据わらせたまま瓶ごとお酒を口に注ぎこんでいる。

「ええェェェ!?土方さんんんっ」
「ふっ、ちょろいモンでさァ」
「た…隊長、もしやなにか……」
「ちょっとねィ、微量の薬を混ぜてみただけですぜ」
「…クスリ?」
「にしても良く効くな、オイ」
「大丈夫なんですか?土方さん目、完璧に据わってますけど」
「ほら、アレでさァ。アルコールを多量に摂取したときの神秘体験ってのを副長にも是非年に一度くらいは味わってほしいと思いやしてね」
「神秘体験って……土方さんそんな体験するどころか、どっか別の世界イっちゃってますけどォ?なんか変なこと呟いてますけどォォォ!?」
「ほんの可愛い部下心ですぜィ」
「可愛いじゃ済まないですよアレ。なんかゴリラ野郎より先に服脱ぎはじめちゃってますよっ?」
「まさかあんなに効くとは、俺も全然知らなかったんでさァ。だから俺は1ミクロンも悪くねぇぞコノヤロー」

 ひやひやしている私のすぐそばで副長はどんどん服を脱いでいく、もうすぐ全裸だ。しかもそれに釣られたゴr…局長までもが争うように脱いでいる。
 って、ちょっと待て!泣く子も黙る天下の真選組のトップふたりが飲み会では誰より先に素っ裸になってるなんてマスコミに嗅ぎ付けられたら大変だ。
 たしかに脱いでる副長の姿はかなりレアで、なんて美味しいシチュエーションなんだろうと思うけど……思う、けど………って、いやいやいやしっかりしろ私。

「まさか土方がゴリよりも先に真っ裸になるとは思いませんでしたぜィ」
「いや喜ばないでください隊長!パパラッチとかが屯所に入り込んでたらどうするんですか」
「あ!土方踊ってる」
「え?」
「ったく、アンタはホント土方好きですねィ」
「ばっ!ちょ、何言ってるんですか沖田隊長」
「俺にバカたァいい度胸でさァ、泣かすぞコラ!」
「目が、目が怖いです隊長…その笑顔やーめーてーー!」

 ドSの本性剥き出しのちっとも笑っていない笑顔が恐ろしい。こんなときにいつも救いの手を差し延べてくれる副長は、完璧な酔っ払いだし。次に助けてくれそうな局長も負けず劣らず酔っ払いだし。そのまた次に助けてくれそうなザキさんも…ザキさんは、あれ?いない。

「誰探してるんでィ」
「ザキさんを」
「アイツは超一級極秘任務の密命を受けて外。ここにはいやせんぜ」
「なんで…」
「アンタの心配してたパパラッチ対策ってやつでさァ」
「じゃあザキさんだけお酒飲めないんですか?全員参加の新年会なのに」
「仕方ねぇだろ」
「………可哀相」
「んじゃアンタが代わってやったらどうですかィ」
「いや!寒いから」
「鬼!」
「隊長にだ・け・は、言われたくありません。でも熱燗差し入れしてきます」

 黙ってその場にいたら、ふたたびサディスティック星の皇子様の悪魔より黒い笑みの餌食になりそうで、お銚子を両手に持って立ち上がった。

「ちょー待てェェェ!!どこ行くんらオメェはァァァァァ?」
「は…?」

 完璧に泥酔状態で呂律の回っていない声(でもいい声)が会場いっぱいに響いて、ぴたり、足を止める。恐る恐る振り返ったら、全裸で仁王立ちの土方さんがビシッと人差し指を私に突き付けている。というかお願いだから誰かモザイクかけてくださァァァい、私まだ一応うら若き乙女なんですコレでも。泣きそうになりながら視線を反らしたまま返事をする。

「外でお仕事中のザキさんの所へ差し入れに」
「ダメらーー、許可しねぇ!オメェはずーっと此処にいろ。俺から目ェ反らすなァァァ!!!」
「……………」
「いやでも土方、そんな格好で仁王立ちしといて目ェ反らすなってのはちょっと酷じゃねぇですかィ」
「総悟は今すぐしねぇ!」
「土方お前がしね、今すぐしね、5秒以内に餅 喉に詰まらせてしね!」
「つうかソーゴ」
「なんだ土方コノヤロー」
「お前なんでさっきからずーっとソイツと一緒にいるんだァ?」
「土方のバカがベロンベロンに酔っ払っちまったからだろィ」
「ちょ、待てコラ!オメェはこっち来いッ!」

 近付いて来た土方さんに腕を引かれて、お銚子を持ったまま倒れ込む。

「コイツは俺の女だァァァ!!」

 当然酔っ払った土方さんがバランスを保てるはずもなく、私は全裸の胸にピッタリくっついたまま、縺れるように一緒に倒れ込んだ(ちなみに漫画みたいなホントの話――手に持っていた熱燗の中身は、倒れた拍子にひらきっぱなしの土方さんの口内へとすべて飲み込まれた。ナイスレシーバー!?)。

「誰もコイツに手ェ出すんじゃねぇぞコラ………」

 ぶつぶつ呟きながら眠りに落ちた土方さんの腕はがっちりと抱きしめたまま離れない。嬉しいけど、かなり苦しい。

「沖田隊長っ、助ーけーてーー」
「無理ですねィ。ま…両想いみたいでよかったじゃねーか」
「………!」
「毛布くらい持って来てやりますから諦めて一晩中そうしてろィ」
「うそーーん」

 ばらばらと去っていくみんなの背中を見送りつつ、いろんな意味で泣きたくなった。大好きな人の腕のなかで眠る初めての夜がこんなお酒まみれなんて――有り得なすぎてちょっとだけ笑える。

 おやすみなさい、いい夢を。


夢ならめない、で?
え、なにこれ。なんでコイツがここにいんの、なんで俺裸?昨日なにやった……覚えてねェェェェェ!!!

「まーだ裸のまま抱き合ってたんですかィ、おはようございますしね土方」
「って、なにこれなにこれ総悟」
「コイツは俺の女だァァァ!!って格好良かったですぜ、流石副長。素っ裸だけどな」
「こら総悟オメェいっぺんコロす!」
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