まさかの嫌がらせ!

「だからなんだよ、あれ?」
「……」
「すっげー迷惑なんですけど」
「……」
「つか、無視すんな!銀さんを無視すんなっつうの。これでも結構繊細なんですゥ、無視とかされると地味に傷付くんですーー」
「うるっさい銀八のバカ!お前なんて、今日の夕飯はデ●ーズのとろ〜り卵とチーズのオムライスにするか、す●家のとん汁牛皿定食にするかで死ぬほど悩んでればいいんだ。悩み過ぎて天パがもっとくるくるになる位悩んで悩んで、その挙句に天パがずるむけになるほどつるっ禿げになってしまえ」
「は?なにそれ」
「………」
「なにそのすっげー趣味悪い暴言。お前そんなんどこで覚えて来たの?」
「………」
「だーれーに、そんな悪趣味な台詞植えつけられてんの?俺に言ってみな、一瞬で制裁くだして来てやるから。いま言え。すぐ言え。さっさと言え!」

 ドS沖田か、土方か、それとも変態ドM女の猿飛あやめか。まさかのダークホース山崎とかだったりして。誰にしたって俺の可愛いカノジョにこんなくだらねえことを覚えさせるようなヤツは許さねえけど。

「坂田銀八先生デス」
「は……俺?」
「それ以外いないでしょ」
「なにそれ、俺ってそんな口悪い?」
「悪い。死んだ方がいいくらい悪い」
「………」
「今すぐ制裁くだしてくれるんですよね」
「いや、それはちょっと。俺どっちかと言うとMじゃなくてSの方だし」
「嘘吐き」
「てか、俺ら何の話してた?さっきまでなに話してたんだっけ?」
「さあ」

 とぼけた表情で彼女は自分の携帯をいじっている。なんなんだよ、ったく。分かるのは何故か彼女が非常にご機嫌斜めらしい、ということだけ。

「まあいいや。とにかく俺は静かにジャンプ読めればそれでいいし」

 手に持ったままのジャンプに視線を落として数秒後、白衣のポケットの中で携帯が震えた。
 ってまたかよ!これだ、これこれ。多分、また彼女からのメールだと見なくても分かったけれど、一応たしかめるために開いてみる。

「思い出した」
「………」
「さっきなに話そうとしてたか思い出したよ俺」
「へえ、よかったね」
「コラお前ふざけんなよ!」
「は?」
「これなんな訳?」

 ジャンプの代わりに手に持った携帯を拡げて、彼女の目の前に突き付ける。

「これだよ、これこれ。意味わっかんねぇ」
「バカだからじゃないですか?」
「は?喧嘩売ってんのかお前」
「売ってません」

 送信者はお前。本文はまっしろ、空欄。いわゆる空メールってやつだ。さっきから何件も何件も同様のメールが送られてきて、俺の受信フォルダは空メールの大群でいっぱいいっぱいになっている。

「つか、俺はただこの空メールの意味を知りたいだけなんですけど」
「意味なんてないよ」
「意味ねぇんならこんなことすんな」
「意味なんてないけど、」
「ないけど、だから何?10分おきに空メールとかされたら俺マジ迷惑なんだけど。おちおちジャンプも読んでられねえんですけど」
「じゃ読むな!」
「いや、読むね。たとえ10秒後にこの世が崩壊するとしても俺はジャンプ読むことに命かけるって決めてんだ」
「じゃあ10秒後に死ねばいい」
「んだよ、それ。マジで言ってんの?」
「………」

 携帯を畳んで再びポケットに戻すと、思いっきり心を引き摺られながらしぶしぶジャンプを閉じて、そっぽを向いたままの彼女の顎に手をかける。
 無理やり視線を合わせたら、舌打ちされた。

「おま!女の子が舌打ちなんてすんな。生徒が教師に舌打ちとか、フツー許されねえよ?」
「じゃ、教師が生徒に手を出すのはアリなんですか。聖職者の 銀 八 セ ン セ イ ?」
「……っ、それは」
「許されませんよね?」
「ばっ、お前それは同意の上だったらアリなんじゃねえの?一応学校内ではヘンなこととかしてねえ訳だし。我慢してるし?」
「我慢してるって、銀八センセイは学校の中でも生徒にヘンなことしたいんですかァ?エーローイィィィ」
「ばっか、うるせぇよ」
「銀八先生がエロイからです」
「でも、お前俺のこと好きだろ?」

 肩に手を置いて囁けば、ちょっとだけ大人しくなる。そういう所はまだ初々しくて、やっぱり可愛い。

「つうか、分かった。分かったよ。まあこの際百歩譲っていまジャンプ読むのは諦めるとしても、授業中にあんだけ何回もメール送って来られたら気になってマトモに授業も出来ねえだろうが」
「銀八がマトモに授業してる所なんて見たことないんですけど」
「なあ、」
「………」
「俺が何したよ」
「………」
「言ってみ。な?」

 どうせ、俺に構って欲しいからとかそういうことなんだろ?ったく可愛すぎじゃねえか、コノヤロー。

「知らない」
「なーんでも聞いてやるから。な?」
「銀八なんて、ずーっとそのまま悩み続けてればいいよ。小学校の文集でボクは将来は弁護士になりたいですって書いたのに、今じゃあ別の意味で法廷に立たざるを得ない状況になってしまった自分に絶望してみたりとかすればいいんだ。バカ!」
「いや俺すでに教師だし。弁護士になるとか興味ねえし」
「でも生徒に手ぇ出してるし」
「うるせぇ!イヤだった?お前もしかしてイヤだった訳?」
「煩いのは銀八でしょう……」
「いや、むしろお前が煩いし」
「………」

 くるりと背中を向けた彼女の肩が小さく揺れて。ちょっと寂しそうに見えた。
 全然訳は分からないし、悪いことをしたつもりも心当たりも全くないけれど、何故か俺が悪いことをしてしまったような気になる。

「おーい」
「………」 
「どした、マジで」
「先に帰ります」
「へ?」
「さようなら、銀八先生」
「いや、今の"さようなら"ってなんか微妙に別の意味だよね?また明日のさようならじゃないよね?」
「………」
「え、なんでなんで?俺、ほんっとに分かんねえんだけど」
「………っ」
「えええええ、何ィィィィ?」

 国語科準備室から飛び出して行く彼女の手首を、ぎりぎりの所で掴み損ねて途方に暮れた瞬間。ふたたびポケットの中で携帯が震える。
 きっと彼女だ(ってことはさっき背中向けて寂しげに肩が揺れてるように見えたのは俺にメール打ってただけってこと?)、と思って俺は慌ててそれを開いた。

 一瞬空メールかと見間違える、長い長い何十列にもわたる改行のあとに、見えたのはたった一言。



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ただの嫌がらせ!

-END-
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 ――ってなんだよこれ!俺お前になんかした?

 悪態を吐く一方で、こんな彼女に振り回される日々もまあ悪くねえなと思ってる俺はきっと世界一の大バカ野郎なんだろうけど。それでもいいかと思えるくらいには、彼女のことを愛しているらしい。
 というか、"それでもいい"どころじゃなくて。本音ではこの我儘怪獣みたいなカノジョが犯罪級に可愛くて可愛くて堪らないから困るんだ。ホントなにこの可愛い生き物!今日はどうしてくれよう。



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送る。校門で待ってろ


-END-
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 ソッコーでメル返して、ジャンプを掴むと部屋を走り出た。



まさかのがらせ!

ほら、刺激もたまには必要でしょう?
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