キスでする餌付け

窓ガラスの内側を水滴が覆う。
外よりも随分こちらの方が高温らしい。

吐息の熱が室温まで上げたのか、と思えば、自分の下で力無く息を荒げている女が愛おしくて仕方なかった。

「しん…じ」
「なんや?」

ほそい指がぎゅっと手首を掴む。
時刻はもう、丑三つ時を少し回っている。

ちゅうことは、もう3時間ほどこうして一緒に揺れとったんか。
あかん。しゃーけど まだ全然足りひんわ。

「明日、朝早い から」
「それがどないしてん」

ニッ、口の端を持ち上げて、同時にぐいっ、と腰を打ち付ける。
声にならない叫びを漏らすなまえの、歪む表情が堪らなく色っぽい。

そんなエロい姿見せるお前が悪いねんで。
止められへんようになるやん。

ほそく括れた腰をガシリと掴んで、もう一度奥を一突き。
頭の芯が痺れそうな甘い声とともに、なまえの内部がぎゅうぎゅうと俺を締め付ける。

ほら、その顔。その声。
やっぱ誘ってんねんやろ?

「止め、て」
「ほんまに止めて欲しいん?」

つんと突き出された胸に舌を這わす。
あらたな刺激に反応して、粘膜がきゅっと収縮した。

「いま、めっちゃ締まってんけど」
「違、っ」

耳元にくちびるを寄せて、低く囁く。

「それって、感じてんのとちゃうんか?」
「しんっ…」

お前、俺の声好きやもんなぁ。

がくがくと震える身体に合わせて、内壁は痛いほどに俺を締め付ける。

「なんや、俺の声聞こえへんの?」
「っっふ!」

官能の滲む声を聞かせたくないのだろう。
もれた吐息を呑み込むように唇を噛み締めて、必死に口元を押さえる姿に加虐心をあおられる。

お前も意地っ張りやねんな。
気持ちええくせに我慢なんかして。

そんなん見せられたら、逆に虐めたなるやん。

「や…やめ、」
「阿呆か。こんな状態で止めれる男なんていいひんわ」
「い、やっ」
「無茶言わんとき」

一層深く突き立てると、なまえは自然に背中をしならせる。
ふるり、揺れて目の前に迫った胸。
視覚的に官能を刺激され、反射的に吸いつかずにはいられない。

オトコっちゅうのは、無意識にそれに反応してまう生きモンなんや。
ええ加減、諦め。

「真子…や、め」
「まだ言うか?」
「だって」
「そんなん言うんやったら、」

ゆるゆると奥を穿ちながら、ふたたび顔を耳元に近付ける。

「な…に?」
「もうキスしてあげへんで」

ぴくり、小さく肩が揺れた。

「それでもええの?」

ぐっ、何かを堪えるように再びなまえの唇が噛み締められる。
するり、髪の間に指を差し込んで梳きながら、唇の端を持ち上げた。

ほら、何も言われへんやろ?
なまえはほんまに俺のキス、好きやもんなぁ。

抵抗をしなくなった身体を、柔らかく抱き締める。
しっとりと汗ばんだ肌同士が、吸い付くように溶けて
繋がった部分が、熱を増す。

耳たぶをやわらかく食んで、とろりと溢れる蜜を味わっていると、不意に鼻をすする音。

アホやなあ、泣かんでもええのに。
しゃーけど、俺の一言に翻弄されるなまえも愛しくて堪らへんわ。

その想いをぶつけるように、一度深く内壁を抉ると、小さな身体が震えた。







「泣きそうな顔見せて、どないしたん」
「意地悪」
「何がやねん」

何がって、決まってる。
私が真子とのキスをどんなに好きなのか、知ってるくせに。

やさしくて、深くて、心がとろけそうなキス。
甘ったるくて、頭がぼうっとして、息が止まりそうな真子のキスが、何よりも好きなのに。

「キス、したないんか?」
「……」

そんなはず、ない。
あれを味わえなくなるなんて。

嫌いだ、と言われるよりもずっと苦しい。

そう言えば、さっきから一度もキスしてないじゃない。もしかしたら真子のなかでは「キスしない」宣言が発効されているのだろうか。

――キス、してない。

それに気付いたら、込み上げる嗚咽を止められなくなった。



「だぁーーっ!?何マジ泣きしとんねん」
「だって」

真子の唇がうるんだ瞳にくちづけて、そっと、雫を掬い取る。
そのやさしい感触に、ますます泣きたくなる。

「しょっぱ」
「真子の、バカ」

まぶたから頬にすべり降りた唇が、リップ音を響かせながら涙を辿る。

なんで、なんで真子は、そんな事を言うの?
私とのキス、嫌い?それとも、私を嫌いになった?
そんなはずはない、と頭ではわかっているのに、ぼろぼろとこぼれ落ちる涙を、制御できない。
まるで子どもだ。

「お前の所為やろ?」
「キス、しないなんて…言わないで」

相変わらず真子の唇は頬をやわらかく刺激して。
流れ落ちた雫を辿るように、耳孔へ舌が滑り込む。
注がれる熱い吐息。

「なまえ…分かってんのか」
「なに、を」

やけに低い真子の声に、ぞくぞくして全身が泡立つ。
はくり、ふたたび食まれた耳たぶが熱い。

真子の背中に回した両腕には、自然に力がこもって。
それに応えるように抱き返してくれる真子の腕は、苦しくなるほどに身体を締め付けた。


「なまえとキス出来ひんなんて、俺も耐えられへんっちゅうねん」


その言葉でこぼれた安堵のため息は、熱いくちびるに阻まれて行き場をなくした。
ひらいた口に、ぬるり、舌が割り込んで。
舌を絡めとられる。

「しん、じ」

唾液の絡まりあう音が、室内にひびく。鼻にかかった声がもれる。

「キスしてるときのなまえが、一番可愛いで」

繋がった部分に真子の手が伸びて、くちゅり、指先が突起をかすめる。

きゅ、自分の内壁が収縮する感覚。

と同時に、粘膜同士の溶けあう感触で頭が真っ白になる。


ぐい、奥を突かれて仰け反った拍子に、くちびるが離れて。
ねだるように手を伸ばすと、真子の首を引き寄せた。

「し…ん、っあ」
「なんや、もう抵抗せえへんの?」

抵抗なんてできないことを知っているくせに。
意地悪な言葉をはきだす薄いくちびるを、自分から塞ぐ。
上も下も繋がって、ぐちゃぐちゃに融けあう感覚は、無意識で欲情をせりあげる。


「もっ、と」
「えろう積極的やんか」
 ま。その方が俺は嬉しいけどな。

浅く、はやく、呼吸を洩らし、思考は徐々に遠のいてゆく。

きっと今頃、真子はニヤリと得意げに唇を歪ませているんだろう。だいすきなあの顔で。
でも、
もう目を開くことも出来なかった。







「ほんまにお前、キス好っきゃねんなあ」
「ん…好き」

その瞬間に、なまえの内壁がぎゅうぎゅうと自身を締め付ける。

ほんまにお前は可愛いなぁ。
そうやって、いっつも素直やったらええのに

言うてる俺の方も、そろそろヤバいねんけど。

はっ、苦しげに息を吐く。
頭のなかが溶けて流れ出しそうなほどの快感に、腰の動きが勝手に激しさを増す。

なまえの奥を何度も強く突き上げながら、深く口付けを交わす。
一番敏感なところに自身の先端を擦りあてると、なまえの身体がふるえた。

「…っっ…しん、じ…っ」

俺の名前を呼びながら、昇り詰めるなまえの姿に、絶頂感を煽られる。

めっちゃエロ…。
こんなん見せられたら堪らんわ。

膝裏に手を差し込み、脚を持ち上げて、深く奥を抉る。
背中に食い込む爪の、痛みすら心地いい。

「も…っと、キ ス」
「分かっと…る、て」

余裕のあるつもりだったのに、自分の下で乱れる肢体を見るだけで、動悸が激しくなる。
甘ったるいねだり声は、軽い眩暈を引き起こす。

俺、どんだけコイツに惚れてんのやろ。

誘うように揺れるなまえの腰を、押さえ込んで。
思いきり打ち付けて。

じわりと滲む吐精感に、身を任せた――


キスする
黙って言うこと聞いといたらええねん

学習完了。
なまえには"キス"が一番効果的、っちゅうこっちゃな。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -