明日も明後日も
「永遠や」
やわらかく口元を緩ませて、市丸隊長がそう言った。
永遠。
市丸隊長のコトバはいつも嘘臭いけれど、いまほどにそう感じたことはない。永遠だとか、絶対だとか吐く口が、それを守ったためしはないのだから。普遍性を持つコトバを使う人間は、ウソツキだと相場が決まっている。
白々しく唇を歪めた作りモノの笑顔が、コトバの軽薄さの裏付けに思える。なのに私は、彼の底知れぬ部分にこそ惹かれていた。愚かだし、不思議だけれど。人間には、底無し沼に飲み込まれたい自虐的な欲、というのがもともと備わっているのかもしれない。
「永遠…ですか」
「せや。永遠」
いつまで隊長の傍にいられるんだろう。乱れたシーツの上で、腕を借りたままの独り言。口に出すつもりはなかったのに、漏れていたそれへの答えが"永遠"で。
なのにその日の彼は、心が泣きだしそうなほどに優しかった。
「どないしたん、黙りこんで」
「…いえ、別に。ただ」
「信用出来ひんなあって思ってんねんやろ」
「そんな、」
「まあ、ボクにもよう分かれへんのやけどな」
珍しく開かれた双眸に私が映る。深い色。
よく分からないというコトバが指しているのは、"永遠"の定義だろうか。それとも彼自身の気持ちのことだろうか。
「独り言、ですから」
忘れて下さい。囁きながら耳たぶを食む。永遠なんて信じないけれど、いま彼の目には私が映っている。
「せやな、不粋なコト言うて堪忍」
「…ギン」
彼の鼓膜が、私の声をとらえて。やわらかく力の抜けた響きが、代わりに私の耳の奥を撫でる。
「なんや、おねだりなんて可愛ええやん」
「……違う」
「キミは、ほんまに嘘つきやなァ」
嘘をついているのはどっちだろう。くるり、体勢を変えた彼に両腕を縫われたら、動けない視界いっぱいに綺麗な顔。
「オンナは素直な方がええのんと違うか?」
するり、滑り落ちる指先はきっとうっとりするほど優雅に肌を這っているのだろう。見なくても分かる。
互いの目には互いの姿が映って、熱をおびた声で名前を呼び合い、手を伸ばせば体温を感じる。先のことなんて分からないけれど、少なくともこの瞬間は。
存在を確かめるように、腰のラインをなぞる動き。コトバなんてなくても、その指先から伝わる想いはたしかに今ここに在るから。
っふ、吐息をひとつ吐き出して。引き寄せられるように、緩く歪んだ唇を塞いだ。
「ほら、やっぱり」
「………っ」
「永遠なんてよう分からへんけど、昨日も一昨日もそうやったように、」
ずっと続いていけばええなァ。
明日も明後日も狡いオトコに惚れた自分を呪った