ドラマチック

「なんでやねん」

 沈黙を割いて、彼が言った。
 何の脈絡も、前振りもなく、無造作に。私にしてみれば突然のことだけれど、無駄に頭のよく回る彼の中ではきっときれいに文脈がつながっているのだ。
 真子はいつもそう。
 なんでやねん、なんでやねん。紋切り型で理由を問う。問い詰める。
 世の中にはそんなに簡単に理由をつけられることばかりじゃないのに。

「お前、好きやったんちゃうんか?」
「うん。過去形」
「ほな、いまはもう違うんか」
「違う」
「なんでまた急に」

 急にとかゆっくりとか、感情は自分でコントロールできないから分からないよ。でも知らないうちに変わっていた。気が付くと、いまの私がいた。

「なんで黙ってんねん」
「………」
「俺には言われへんのか」

 ケチくさいやっちゃなあ。そう言って責める真子の顔は、言葉と裏腹にいつもやさしい。

 氷のとけてしまったアイスコーヒーは、まるで今の私みたいにぼんやりとぼやけた味がする。
 言わないんじゃなくて、言えないんだと、伝えられたら少しはラクになれるだろうか。

「今まで散々、話に付きおうたったやないけ」
「…そう、だったね」
「せやのに、突然あいつと別れたやなんて」
「………」
「愚痴聞いて、宥めて、慰め続けてきたんは何やってん」

 結構傷付いててんぞ。ちいさくつづいた真子の台詞は、空耳だろうか。それとも、都合のいい聞き違いだろうか。

「、え?」
「理由も言われへんのかいな」

 突然、目の前の真子が真剣な顔になる。口を閉じて、眉根を寄せた顔は、お世辞じゃなく綺麗だと思った。
 薄い色の瞳に見つめられたら、呼吸が喉元で止まる。息を吸うことも吐き出すことも出来なくなる。苦しい。
 身体を強張らせて、グラスを握りしめれば、その上からそっと両手を包まれた。

「もしかしたら、アレか」
「…あれ?」
「……」
「………」

 あれ、というのはなんだろう。言葉の続きを待ちながら、ぼやけた脳細胞を総動員して指示語のさすものは何かと考える。考えるけれど答えは見つからない。彼はまだ、なにも言わない。
 やけに緊張感のある沈黙が、数十秒続いた。包み込まれたままの指先は、すっかりあたたかい。男の人にしてはきれいな手だな、とあらためて思ったら、自分の頭に浮かんだ言葉で急に胸がさわぎはじめる。
 どくん、どくん、心臓の音がうるさくて、このままだと本気で呼吸困難になりそうだ。そう、思った瞬間。指先にぎゅっと力を込めながら、彼がやっと口をひらいた。

「俺に惚れてもうたんやろ」
「……っ、バカ!」

 ニッと歯を出して笑う真子の顔をまともに見られなくて。繋がった手から体温がどんどん上がっていく。

「なんや。冗談やんけ」

 それとも。
 その赤い顔――図星やった?


ドラ
まあ、俺はとっくに惚れとるけど
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