あさきゆめみし

 真子がモテている夢を見た。余りにモテすぎたせいで、たまたま真子がとりわけ優しく接したある女の子(※私ではない)に ファンたちからのやっかみが集中して、ベタに剃刀の刃とか送られた上に体育館裏に呼び出される事態になるくらいモテていた。源氏物語の光源氏もかくやと言わんばかりの尋常でないモテっぷりはいっそ笑える。
 私はその虐めの対象になった女子と仲が良い設定らしく、彼女のことを心配して真子を誘い、気乗りしていなさそうな冷血人間の真子を無理矢理自転車の後ろに乗せて「なんで私が運転?」って文句を言いつつ体育館裏へと向かう。重たいなと思いながら二人乗りで疾走してる途中、目が覚めた。


「おはようさん」
「…モテる男は辛いね」
「は?起きぬけに何ワケ分からんこと言うとんねん」

 さっきまで夢のなかにいた私にはしっかりつじつまの合う台詞だったが、真子にしてみれば意味不明だよな……と、かい摘まんで夢の話をする。
 社会人になって数年がたち、こうして一緒に暮らしているくせに、夢のなかでは下駄箱やら体育館やらが登場したってことは学生設定だったのだろう。そういえば二人とも制服姿なのを変だとは全く思わなかったのが不思議だけど夢ではなんでもありなのだ。
 途中までかなり上機嫌で口笛でも吹き始めそうな顔のまま聞き入っていた真子なのに、私が話し終えるころには目の前で餌を取り上げられて拗ねる猿並に不愉快剥き出しの表情になっていた。

「ほんでモテる男は辛いね、か」
「そう。って、なんでそんな顔?」
「そんなって何がや」
「不機嫌にならなくてもいいじゃない、夢の中だけのこととは言えモテモテだったんだから」
「………」
「ホントすごかったよ、歩けばキャーって歓声。毎日ラブレターの山」
「アホか!俺はいつでもモテモテやっちゅうねん。夢ん中だけちゃうわ」
「はいはい……」

 だったらなぜそんなに不機嫌そうに顔を歪めているんだろう、それではせっかくの綺麗な顔が台なしだ。への字に下がった口の端をぴっ、と上へ引っ張ってみたら、指先を突然掴まれた。

「……で、お前は?」
「へ…?」

 低い声で問われて、一瞬思考が停止する。真子のこの種の低音にはいつもうっとりするけれど、寝起きで掠れているせいか、なおさら艶っぽく聞こえて困る。

「お前はなんも思えへんかったんか、て言うとんねん」
「とりあえず重くて疲れた」
「はァ?」
「普段は自転車後ろに乗せてもらうばっかりだから」
「………」
「真子、いつもあんな重たい思いしてるんだなあ……って、ちょ!」

 喋っている途中にもぞもぞと姿勢を変えた真子は、私の上にのしかかると全体重を解放した。

「重っ…」
「お前のせいやで」

 重たかったって、そういうことじゃないんだけど。夢の中で感じていた重さとは全然違う感覚。

「苦しいんですが、真子くん」
「絶対どいたれへんわ」
「潰れる…内臓でる!」
「いっそ潰れてまえ、ボケ」

 抗議するたびに耳元で響く声も、全身をじわじわと圧迫する真子の重みも、なんて幸せなんだろう。

「…意地悪」
「意地が悪いんはどっちや」
「真子でしょう?」
「お前、分かってへんなァ」
「なにが?」
「ぜんっぜん分かってへん」
「だから、なに」

 ホントに苦しいんですけど、と抗議しようとしたら、そっと耳たぶを食まれた。



あさきゆめみし

ちょっとくらい嫉妬してくれてもエエんちゃう?

2010.05.03
ヤキモチ妬かない彼女に拗ねる真子。
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