被害者面しても無駄
「嘘」
「嘘じゃない」
「イヅ ル…」
シーツの上、じたばたともがく身体を押さえつける。かさかさかさ。渇いたきぬ擦れの音が止んで、君の身体から力が抜けた。世界は少しだけ哀しい。
「信じてくれないの?」
「………いや」
「じゃあどうしてこんな」
信じていた。彼女のことを信じてもいいと思った。それはつまり、彼女になら裏切られてもいいってことだ。
だけど――
「理屈じゃないんだ」
日当たりの悪い執務室で日夜味気ない書類に向き合っているために血色の悪い色白な指先で彼女の最も敏感な部分を摘むと、一息に捻りあげる。
あられもない声をあげそうになるのを必死で堪える女の瞳に背筋がぞくぞくと泡立ち、煽られるようにふたたび捻りあげる。強く。
見据えた顔が苦しげに歪むのを見たら、もっと歪ませたくなる。もっともっと綺麗な顔を歪めて、苦しんで苦しんで僕に縋ればいい。
「……妬いたの?」
「分からない」
でも、別の男と楽しそうに笑い合っている姿を見たらどうしようもなくなった。傷つけて傷つけて、歪む表情を見下ろし、追い詰めて追い詰めて、縋り付き懇願する姿をいつまでも見ていたいと思うのは間違いだろうか。
「…イ ヅル」
「謝らないよ」
愛でるために伸ばした青白い指先で、愛する者を追い詰めて、いたぶって傷つけて。虐める指にもっと力を込める。
「君がいけないんだ」
「………っ」
「君のせいだから、君のような女性は思い知るべきだ」
愛を交わすための言葉で、無造作に心を抉る。
一瞬悲しげに歪んだ表情に見惚れていたら、伸びてきた細い腕が首筋に絡み付いた。
「イヅルは………不器用なんだね」
何なんだい、そのなにもかも包み込むような柔らかい顔は――僕が馬鹿みたいじゃないか。
被害者面しても無駄簡単に許して貰えると思わないでくれるかな(許されているのは僕のほう)。- - - - - - - - - - -
2010.11.06
嫉妬深い僕はきらい?