模範回答

「ずっと考えていたことがある」的な語り口で彼女が口火を切ったら要注意信号だと、長年の付き合いで平子はすぐに勘付いた。

「……」

勘付いたからこその無言、気付いていないフリだったのだが、いとも簡単に彼女はそれをスルーして語り始めてしまうのもお約束。

「考えていたことがあるので、平子さんが聞きたかろうが聞きたくあるまいが私は最後まで語るつもりでここに来たんですけど」

ずん、と可愛らしい顔を近付けて俺を覗き込むその目はなぜか微妙に怒りの色を宿している。
最初に無言を通したことが、それほど彼女の機嫌を損ねたとは思えないのだが、なにやら予想以上に不穏なものを感じて平子は先を促す。

「なんやねん」
「聞いてくれるんですか?」
「聞かへん言うてもどうせやめる気ないんやろ」
「よくお分かりで」

どんだけ長い付き合いやと思てんねん、という言葉を飲み込んで平子はついに腹を括った。

「で、なにを考えてん」
「斬魄刀のことです」
「は?」
「斬魄刀の擬人化?具象化?どっちでもいいけどそれについてめちゃめちゃ考えて考えて眠れなくなってしまって私今日ふらふらなんです眠い」
「知らんわ!」
「酷い。平子さんのせいなのに」
「分かるように説明せえ」

だからこれから話そうとしているんですよ、と言いながら彼女は居住まいを正した。

「ほな、どーぞ」
「はい。平子さんの斬魄刀について考えていました。平子さんの斬魄刀が擬人化したら、きっと女性なんだろうなと考えていました」
「……」
「おそらく私のことをビジュアルだけで逆撫でするようなレベルの美人サンで、かつ超ナイスバディで甘ったるい声をもった女性に違いないと思うのです。逆撫だけに」
「なんやそれ」
「思うの!おまけにいつもいい香りをさせているんだ。異性を酔わせてうっとりさせるようないい香り。なにそれ自分とまるで正反対じゃないですか。命を預け、名を呼んで、力を引き出す、平子さんのいわば分身とも盟友とも言えるいちばん近しい存在が美人のいい匂いのするお姉さんで、平子さんと彼女は四六時中生きている限りそばに居て共に在るんだ、平子さんのいちばん傍にいるのは私じゃなくて彼女なんだ、とか考えていたら苦しくて苦しくて堪らなくなって、それで、私は、私は、、」
「なにを一人で勝手に突っ走って落ち込んどんねん アホか」
「だって、」
「だってちゃうわボケ」
「だって平子さんの斬魄刀が悪い」
「意味わからんわ!その好き勝手思考回路を羽ばたかす癖、ええ加減にどないかせぇ」

ため息をつきながら、息の乱れた彼女の背を撫でようと手を伸ばしたらキツく睨まれる。

「どっちなんですか」
「は、?」
「どっち」
「なにがやねんな。唐突すぎて意味分からん」
「誤魔化さないでください。斬魄刀の性別、どっちなんですか。男ですか女ですか」
「…オ、ンナ やなァ」
「ほら!やっぱり!」
「やっぱりてなんやねん、俺なんも悪いことしてへんやんけ」
「口ごもり方に後ろめたさが滲み出てました。間違いありません」
「落ちつけや」
「平子さんは隊長ですよね」
「なにを当たり前のこと言うてんねん」
「隊長ってことは当然、卍解もできると言うことですよね」
「せやな」
「卍解を会得するには斬魄刀の具象化と屈服が不可欠なわけじゃないですか。ということは平子さんは当然擬人化した美人の彼女を屈服させたのだなあと思ったら、美人さんを組み敷いている平子さんの姿が脳裏にまざまざと描き出されて私、胸が痛くて。いたくて」
「……」

切なげに顔を歪める彼女とは対照的に、口元が緩みそうになる。
なんやこの可愛らしい生き物は。そないに俺のことが好きか。

「なんでさっき、一瞬口ごもったんですか」
「それは、アレやろ。お前がまた誤解して変な方向に突っ走るかもしらんからやろ」
「私のせいなんですか」
「当たり前や」
「というか、誤解されかねないような事があるんですか」
「あるわけないやろアホ」
「……まあ、いいや」
「やっと納得してくれ…
「美人サンですか」

まだ続くんかい。

「まあ、な」
「どれくらい」
「………」
「どれくらい美人サンなんですか。言葉にならないくらいの美人サンですか」
「お前には負ける」
「!!?!!」


模範回答

(許します)
(許すも許さんもないで。つか、お前顔赤い)


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2015.01.22

わちゃわちゃ言い合うの、すきです
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