近道するならここを右

まるで寒さのとどめを刺すようなものですよねえ。冷え切って澄んだ空気中に細い腕を伸ばしながら彼女は言った。珍しく尸魂界に雪の降るある日のこと。

「ねえ、隊長」

羽毛のような雪片を受ける形よい腕が、死履装の袖口から大胆にはみ出している。

「なんや」
「雪の降るメカニズムって御存知ですか?」

色白の顔を気難しげに歪めて空を見上げる彼女が目に入ったら、ああまたかと平子は思った。またなんや ややこしい事言い出しよるで、と。

「知らんでも生きて行けることは知らん」
「まあ、私たち既に一回は死んでるんですけどね」
「そない昔のこと忘れたわ」
「…それはそうと雪ってね、大気中の水蒸気から生成される氷の結晶が空から落下してくる天気のことなんですよ。そもそも水蒸気が上昇して雲を作って雨や雪がふるっていう一連の流れが地球での在りようと同じように尸魂界にも適用されるという事実が私にはどうにも納得いかないというか、」

一体尸魂界はどこの時空に存在しているんですか 地球と同じ時空ですか 次元違うんじゃないんですか。と言葉を続ける彼女を見下ろして平子の眦が下がった。難しく考えているときの彼女も可愛い。

「なに言いたいねん」
「寒い、です」
「せやな」
「特に首のまわりが寒いです」

死覇装ってなんで首元あいてるんでしょうね デザインした人出てこいやコラ、って感じ。乱暴に言葉を続ける彼女にため息をひとつ。


「近う寄れ」
「なんですかそれ、どこぞの世界のバカ殿様かなにかですか」
「なんでもええから、黙ってこっち来い言うてんねん」

なおも文句を続けそうな彼女の腕を引いて、ぐいっと引き寄せる。
自慢のスーパーロングヘアをマフラー代わりに二人の首へぐるぐる巻いてやると、身体はぴったりくっつく。隙間なく、ぴったりと。

「どや」
「歩きにくい」
「そんなんお互いさまやろ」
「まだ寒い、ですけど…心はなんとなくほっこりしますね」
「なんとなくかい」
「はい。なんとなく、確実に」

そう言って至近距離で平子を見上げ 微笑む彼女の顔を見たら、自分の胸もほっこり温もった。ような気がした。
髪伸ばしといてよかったわ。


近道するならここを右

はよ隊舎帰るで
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2014.01.20
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