世界を測る物差し 02

理由の付かない胸の痛みは、あの晩なまえを抱いてから随分鎮静化している。
それが何故なのか、もう考える意味すら見出せない(治まったんなら、それで充分だ。理由だなんだと、いつまでも執着するのは俺の性に合わねえからな)。

ただ、また別の不可解な感覚に囚われているのは確かで。
細かいことにはこだわらねえ俺でも、それが流石にデリケートな部類の事象だと認識するだけの頭は持っていた。

ったく、なんでだ?
歳っつうやつか…

何百年もの命を保つ俺たちに、そんなもん関係あんのかよ?おかしな話だ。



執務室には、退屈な昼間の空気が満ちている。
温い日差しが窓から降り注ぎ、気の抜けた隊舎全体を淡く戦いから遠ざけて。こんな所にじっとしていたら、身も心も腐っちまいそうだ。

早く夜になればいい。夜になって、あの部屋で彼女の肌に触れられれば。
そればかりを思いながら、無意識で溜息を吐いた。




世界測る差し

scene 02



「ため息なんて、らしくねえっすよ」
「うるせえぞ、一角」

「何かあったんすか?」

「…いや、別に」



にやにやと気持ちの悪い笑みを向ける一角に、無性に腹が立つ。
お前に今の俺の頭ん中が見えんのか?

一発殴ってやろうかと腰を上げたら、扉が開いてなまえが姿を現した。

湯呑みの乗った盆を片手に、皆の間をすり抜けて歩く彼女を見ていると、不可解な感覚が鮮明に思い起こされる。

「剣ちゃん、またなまえちゃんに見惚れてるー!!」
「アホか」
「ニブチン剣ちゃんも、やっと気付いたんだ?」

やちるの言葉は、子供らしい軽口に見えて、存外的を得ていなくもない。
その証拠に、胸の奥がほんの少しだけ跳ねた。

「そう言えば隊長、胸痛はもう治ったんですか?」
「おう。嘘みてえにな」

会話の流れを断ち切るように言葉を挟んだ弓親に向き直る(こっそり感謝したくなったのは何故だろう?)。

「良かった。僕ら、心配してたんですよ?」
「悪ぃな、もう大丈夫だ」
「だから、イッチーには関係ないって言ったでしょ?」
「そうだな」

顔を見合せて笑った俺たちの方へ、なまえが近付いてくる。

「なんだか随分楽しそうですね」
「うん。なまえちゃんも混ざりなよ!」
「じゃあお茶菓子でも持って来ますから、もう少し待っててくださいね」
「わーい」

まるで何でもない顔をして、目の前へ湯呑みを配る手は、いつもと変わらず白く透き通っている。
なめらかに翻る細い掌に、つい触れたくなって、ごくり、唾を飲み込んだ。

毎晩のあの行為を、彼女はどう思っているんだろう。
無理強いされて傷付いてはいないだろうか、俺を怨んではいまいか。

恨まれるのは構わないが、彼女が傷付いて苦しんでいるのだとしたら敵わない。

そんな風に女の気持ちを気にする俺は、どうかしちまったんじゃねえか?柄でもねえ。



「痛みはもうねぇんでしょう?」
「ああ」
「それにしては、隊長…浮かねえ表情っすよ?」
「そうか?」

一角の問い掛けに、再び胸の奥が跳ねる。
毎夜感じる不可解な感覚の正体、こいつらなら分かってくれるだろうか。

「ちょっと気になることがあってよ」
「何ですか?」
「何なにー聞きたい!!」

やちるにはあんまり聞かせたくねえが、仲間外れを何より嫌うコイツだ。
仕方ねえか…

ふっ、ため息を吐き出して、呼吸を整える。
何から話すかな……つうか、そんな順番を悩んでる事自体めんどくせえ。



「最近、早えんだよ」
「は?」
「隊長…いくら賢くて美しい僕でも、主語がないと理解しかねますよ」
「アタシも全然分かんなーい」

ったく、うるせえ奴らだ。
早えっつったら、アレに決まってんだろうが。
デケえ声出すな。

「早いって…何が、ですか?」
「剣ちゃん、ヒントちょうだい」

ヒント、か――







昨日も、面倒な仕事を終える頃には、夜のひとときを待ち侘びていた。
湯殿で身体を清めながら、頭に浮かぶのは同じことばかりで。
戦い以外を欲する感情など捨ててきたつもりなのに…と、自嘲の笑みが漏れる。
ここの所、毎晩そうなのだから戴けない。

わざと時間をかけて湯舟に浸かり、のぼせそうな身体で、のぼせそうな頭を捩伏せた。

着物を羽織り、部屋に向かう道すがら、意図せず乱れる霊圧にため息がこぼれる。

"今夜も彼女は俺の部屋にいるだろうか?"

あれからしばらくの間、毎日その状態が続いたから、今日もそうだ…とは限らねえのに。

事実、俺たちは何の約束もしていない。命令もしていない。

"今夜も彼女は俺の部屋にいるだろうか?"

期待するな、溺れるな、信じるな。

すっ、静かに扉を開く。



彼女はそこに

居た――



「今日も来てたのか」

欲望を滲ませないように気をつけて問い掛けるのは、防御策の一種。がっかりしたくはないから。
今夜こそは何かの理由があって彼女は此処に来たのに違いない。

「はい」
「オメェも物好きだな、こんな所に来て何が楽しいんだ?」

俯く横顔を青白い月が照らす。
まだ濡れた髪の先から、雫がぽたり、彼女の膝に染みを作るのが妙に官能的に映る。

「楽しくは…」
「なまえ」
「……っ!」

名前を呼べば吐息が漏れる。
甘くて、細い、消えそうな吐息。

それだけで

情事が始まるには充分だった。


「隊長」
「そうじゃねえだろ?」
「剣…八」

華奢な身体を包み込み、耳元に顔を寄せる。

「なまえ」

耳朶に軽く歯を立てて甘噛みすれば、気丈な身体からは一気に力が抜けて。
抵抗力を失った彼女をそっと押し倒すと、跨がって上から見下ろした。

彼女も風呂上がりなのだろう、透き通る白肌はうっすらと桃色に上気して、無言で俺を誘う。

「剣……」

艶めく唇を伝って漏れる自分の名前に、胸の奥がどうしようもなく痛くて堪らない。
やっぱり、なまえは何か特殊な鬼道を使ってやがる。それも、かなり厄介な類の、な。

「剣八」

再び名を呼ばれて、身体中が甘く疼いた。
名前っつうのは、案外深いモンらしい。呼ばれるたびに心がふるえる。

「なまえ…」

呼ぶたびに、もやもやとした感情が浮かび上がる。

藻掻くように首の後ろに回された細い両腕が、鈍い衝撃を俺の中へ返す。これもまた鬼道の一種なのか?
のぼせ始めた頭は、いつもより一層、働きを鈍くして、眼前の欲に目が眩む。

誘うように薄く開かれた唇を塞ぎ、こぼれる吐息を飲み込んで。
ゆるく結ばれた腰紐をしゅるり、解くのと同時に、やわらかい胸に顔を埋めると、抑えていた欲情を開放した。







「なまえ」

隊長の低い声で名前を呼ばれると、それまでの思考は一気に消え失せる。
今夜こそは隊長の本意を問い質そうという目的も、強すぎる霊圧への怯えも、あっという間に霧散して、残るのは愚かな欲望ばかりだ。

腰紐が解かれ、荒々しくはだけられる胸に、ひやり、濡れた髪の束が触れる。
口づけられた部分で、細胞は快楽を求めて騒ぎ始める。

胸の尖りを甘く噛まれ、脳内が真っ白に弾けて、夢中で隊長の頭を抱きしめる。
そうしていると、この男の事が愛しくて堪らなく思えて来るのは、行為が誘引する錯覚だろうか。

「…剣八っ」
「なんだ?」

ほんの少し顔をあげ、視線を私の瞳に合わせる彼から目が離せない。
ちらりと唇の隙間から舌を覗かせて、双眸を見据えたまま厭らしく突起を舐める仕草に、鳥肌が立つ。

「なまえは、こうやって自分が攻められるトコを見んのが好きみてえだな」
「……違っ!」
「違わねえだろ…嘘吐きやがって」

ニヤリ、口の端を歪めて、意地悪な言葉を続ける隊長に、しがみつく。
彼が喋るたび、尖らせた舌が敏感な所を刺激する。

「目え反らすなよ」

「や…っ」
「正直にならねえと、止めちまうぞ?」

きゅっ、長い指先で与えられる刺激は、触覚と視覚の両方で私を翻弄する。
知らぬ内に彼の肌へ爪を立て、唇を噛み締める。

「なまえ」
「…っ、はい……」
「我慢なんてすんな」

優しい声が降ってきて、あたまの芯がとろける。
ぬるり、熱い舌で唇をこじ開けられて、吐息を掬われた。
飽和した息には、含み切れなかった欲望があらわに滲んで、響きが自らを煽る。

早く、はやく

欲しくて堪らない――



「けん…ぱ……ち」

名前を呼ぶのと同時に、圧倒的な存在感が粘膜を擦る。
唇を重ねたまま、ぴったりと隙間なく触れ合って。
繋がった部分で、脈動を感じて。

「なまえ…っ」

名前を呼ぶ隊長の色っぽい表情を見ているだけで、頭がおかしくなりそうだ。

「け、ん…っ」

きゅっ、呼応するみたいに粘膜が収縮する。
びくり、彼が私の中でふるえる。

きっと私が感じるのと同じタイミングで、隊長も感度を増して。
眉間に刻まれた皺が深くなれば、私の腰がしなる。
彼が悦楽を感じている証拠に、呼吸はだんだん浅くなる。

酸欠になりそうなほどに、何度も唇を重ねて、ゆらゆらと揺れる意識を持て余す。
襞を刔る熱に奪われそうな意識の向こうで、掠れた声が聞こえる。

「名前、呼べよ…なまえ」
「…っ、けん」

確実に弱い部分を擦りながら、繰り返し最奥を穿たれて。
麻痺した頭では、彼の言葉をもう、理解出来ない。

「呼べ…なまえ」
「…っあ、」
「呼びながら…イけ」
「けん……ぱ…ち」

必死で彼の名を呼ぶと、淡く意識を手放して。

「なまえ…っく、」

呼ばれる名前と、体内で広がる熱い液体を、何処か遠いもののように感じていた。







やっぱり早え…か。

気のせいじゃねえかと思ってたけど、そうでもないらしい。
別に、長く保つ方が偉いとか、馬鹿みてえなことにプライドかける気は毛頭ねえが、急に保持時間が縮んだとなると気になるのが道理ってもんだ。

なまえとヤる以前に女を抱いたのは、ひと月ほど前。
あん時は確か、余りに長過ぎて俺の方が途中で飽きちまいそうだったのに。

何故だ。
これも、コイツの妙な鬼道かなにかが理由なのか?

身体を繋げたまま、浅い呼吸を繰り返している唇をそっと塞ぐと、彼女の中で自身はゆるりと再燃する。
額の汗を指先で拭い、閉じた瞼にキスを落とす。
さっき達したばかりなのが嘘のように、欲情が体中を充たして、すぐにでも目の前の女を、食い尽くしたくなる。

もしかしたら、溜まってたから早かっただけで、二回目はもっと長保ちするんじゃねえか?

そう思って二度、三度と行為を続け、結局困惑したまま朝を迎えるのも、今夜で何日目だろう。
残るのは、気持ちの悪い不可解な感覚と、彼女の疲労感だけ(俺は元々霊圧が高えから、そんな程度じゃ全く疲弊しねえ)。



「剣八……も、無理」
「悪ぃな」

ぐったりと力の抜けた身体を腕に抱いて、白みはじめた空を見ながら眠りに就いた。







「ヒント…なあ」

言ったきり黙り込んだ隊長を、じっと見つめる。
更木剣八が、またモノを考えてんじゃねぇか(雨が降る位じゃ済まねぇぞ…そのうち世界が崩壊する位に珍しいことだ)。
ちら、と弓親の方を見ると、多分俺と寸分違わぬ事でも考えているんだろう。意味ありげな笑顔を浮かべていた。

「剣ちゃん、ヒントまだー?」
「うるせえな。早いっつったら分かんだろうが」
「えー…わかんない」
「俺も"歳"かもしんねえな……って、何言わせやがる」

"歳"って言ったよな、今。
"早い"と来て"歳"っつったら、もしかして(いやいや、歳っつったら逆だろ…落ち付け、俺)。

「ああ!分かった」
「なんだ。そんな簡単に分かっちまったか」
「うん。夜の生活の事でしょ?」
「おう、やちるは相変わらず鋭えな」

おいおいおい、あんたら昼間っから何の話してんだよ!
隊長も、もう少し隠せって…なあ?

同意を求めるまでもなく、弓親からは憐れみに似た視線が投げられる。

(一角、すごい変な顔になってるよ)
(うるせー!今、問題なのはそんな事じゃねぇだろうが!)
(まあね…でも、あの二人には常識なんて通用しないし)

そりゃそうなんだけど。と、ため息を吐き出したら、得意げな副隊長の声が室内に高く響いた。

「やっぱりねー、剣ちゃん歳だから」
「…ああ」

ふ、副隊長…よもや、あなたの口からそんなに露骨な話を聞く日が来ようとは。
男、斑目一角…ついぞ思いもしませんでした(無念、と言うべきか否か)。

「アレでしょ?」

"アレ"なんて。
その曖昧な指示語が既に、そこはかとない厭らしさを感じさせるのは、気のせいでしょうか?

「アレ、アレ!山じいも時々そう言ってたもん」

山本総隊長が、うちの大事な副隊長にそんなことを?
あいつ、とんだセクハラじじいじゃねぇか!

「そうかー、剣ちゃんもアレなんだ?」
「おう」
「アレだったら、そんなにニブチンでもないんじゃん!!」
「お、おう…」

ニブチンって、その"チン"はそう言う意味だったんですか?
俺、何か頭ヘンになりそうだ。



「ちょっと待って、アレって何の事なの?」

てめ、弓親!何聞いてやがる。
これ以上露骨な表現を副隊長の口から聞く気か?
お前、もしかしてそういう趣味……

「アレってのはアレだよ!どんなに遅く寝ても、朝は早くに目覚めちゃうんでしょ」
 老人になるとそうなんだって、山じい嘆いてたよ。


――違っ…た……

「……いや、違えな」
「えー違うの?じゃあ何?」
「イくのが早えんだよ」

た、隊長…?いま、なんて?

「最近イくの早えんだ。一角…オメェ、どう思う?」

ええぇぇぇ!?何言ってんだ、このヒトは。
もう少し何と言うかオブラートに包むとか……出来ねぇわな。更木剣八だもんな…。

はぁ……――


ふと視線を上げると、俺たちの話が聞こえない所まで弓親が副隊長を誘導していて。
何か、ひとりで慌てて脱力して、ため息ついてる俺がバカみてぇじゃねえか。



「で、どう思うよ。一角」
「そうっすねえ。俺はまだ若いから、隊長とは全然状況が違うんすけど」
「だよなあ、俺もオメェの歳の頃は今よりまだ早かったかもしんねえわ」
「って、俺が早ぇとか遅ぇとかじゃなくて」
「ああ」

そうなんだよなあ。と言いながら、隊長が遠い目になる。
これは、相当悩んでいるらしい。
かと言って、他人がどうこう出来る問題でもねぇしな。



――ガチャ。
小さな音を立てて、扉が開き##NAM2##七席がお茶菓子とやらを手に現れた。

「あー!!なまえちゃん、おかえり」
「ただいま戻りました」

弓親の傍へ近付くみょうじ七席の姿を、隊長の鋭い左目が追いかける。

「そういやな、」
「はい」
「アイツとヤる時だけ、早えんだ」
「は?」
「アイツだよ。なまえを抱く時に限って、早えっつってんだ」
「はぁぁぁぁぁぁ!!??」

全く、何を言うんだこの人は!!
俺はもう知らねぇぞ、こうなったらどうにでもなれ…だ。


「なあ、なまえ」
「はい?」

俺たちの話が聞こえていなかったのか、みょうじ七席は笑顔でこちらに振り返った(いや、聞いてなくて正解だよ、まじで)。

それに合わせて、弓親と副隊長の視線もこちらへ注がれる。

「お前とヤる時、イくのが早えって話なんだけどよ」
「……あの、私は」
「オメェも、そう思ってんだろ?」
「た、隊長…あの、ここでは」
「なんだぁ?恥ずかしがってんのか」
「……」
「構わねえから言っちまえ」

そりゃ恥ずかしいに決まってますよ。
彼女はどちらかと言うと、初心で大人しいタイプなんすから。
彼女が隊長に喰われてるなんて、聞いた俺達も耳を疑うっつうの。

これ、マジな話なのかよ。
隊長の夢物語とかじゃねぇのか?

「で、どうなんだよ」

恥ずかしそうに眼を伏せた彼女を見据えたまま、隊長は低い声で笑う。
意外にも楽しそうなその様子は、見ていて不可解ながらも、決して嫌な気分ではなかった(新手のバカップルでも見ている気分だ…なんつったら怒られんだろうな)。

「私は、そんなに経験がないので……わかりません」

えええ?!ってことは、やっぱりマジな訳?
本当にこの野獣と、純情可憐を絵に描いたようなみょうじ七席は寝てんのか?



「でもなあ、確かにお前とヤる時だけ早えんだけどな」

待て待て待て、まだ言うか?
隊長には、羞恥心とか照れっつうもんはねぇのか(ねえよな。分かってんだけど)。
隊長の感覚とか尺度ってのが、常人離れしてるのは昔っからよーく知ってる。
だから、今のこの状況は別に更木剣八の在り様としては何の不思議もねぇんだけど。

だけど…

つうか、この場…どうやって収めるよ、弓親。

副隊長の隣に席を取る弓親の方へ、救いを求める視線を投げたら、思いっきり綺麗にスルーされた。
この空気…俺、耐えらんねぇんだけど。



「剣ちゃんのニブチン!!」
「はあ?」
「そんなの、剣ちゃんがなまえちゃんに惚れてるからに決まってるじゃん」
「……」
「ねー、つるりんもそう思うでしょう?」
「…はい」

これは、一応助かった…のか?
執務室を取り巻いていた淀んだ空気が、副隊長の一言であきらかに変わった事は確かだ。

「俺が…そう、なのか?」
「そうだよ!!何で分かんないの?」
 やっぱり剣ちゃんってば、ニブチンだ!

無邪気な副隊長の声は容赦なく響いて。


「やちるちゃん、それはちょっと言い過ぎじゃ…」
「いいんだよ、剣ちゃんなんてこれ位言わないと分かんないんだから」
「でも…」
「この前、胸が痛かったのだって、剣ちゃんがなまえちゃんに惚れてるからだしね」
「……」
「イくのが早いのだって、剣ちゃんがなまえちゃんを他の女の人とは別だって思ってるからじゃない!!」
 それを、なまえちゃんが妙な鬼道使ってるとか訳わかんないこと言っちゃって…ヘンなのー!

いや、正しいんすよ。副隊長のおっしゃることは全て正しいっす。
でも、それでは余りに…ほら、みょうじ七席だってあんなに顔を真っ赤にしてるじゃねぇすか。
つうか、"イく"なんて言葉をうら若き乙女がそんなに堂々と使うもんじゃねぇ…ってのは、俺が言うべき事じゃねぇのかな。



「ところで、つるりん」
「なんすか?」



「"イく"って何の事?」



世界測る差し

(物差しなんて人と違ってても良い)


これで、私たちは幸せだから。

高い位置にある隊長の顔を見上げたら、見たこともないような優しい眼差しが降って来た。


分かってます。

今夜も、ですね――
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