学校、教室。

斜め前の席、明るいオレンジの髪があるのとないのとでは、教室の空気が全く違う。
少なくとも私にとっては。

よほど疲れているのだろう、うつ伏せで眠る彼の眉間には、皺がくっきり。
寝ている時までそんな顰めっ面してるのが、すごく黒崎くんらしくて、つい笑った。

「なまえさん、何笑ってんの?」
「え…別に」

隣の席、浅野くんに声を掛けられて、慌てて笑いを噛み殺す。
黒崎くんを見てたなんてバレたら、また彼の事だからぎゃーぎゃーと騒ぎ立てるに違いない。
そんな賑やかさも、別に悪意はないから嫌いじゃない。
ただちょっと、時と場合によっては、迷惑だったりする…ってだけのこと(なんて思ってる事が浅野くんにバレたら、きっとまた半ベソかきながら騒ぐんだろうな)。

ごまかすように一度視線を窓の外へ泳がせる。
春を思わせるやわらかい陽射しに、立ち枯れたグラウンドの隅っこの樹木たちは寂しげ。
黒崎くんの髪はこんなに温かそうに光ってるのに。

緩やかに戻した視界の端と端、チャコールグレイの陰とオレンジの陽。その対比が、眩しく胸を照らす。
ちらり、腕の隙間から覗く鋭い目。

黒崎くん、いまこっち見た?

とくん。胸が跳ねる。

薄く開いた瞳が、私を捉えたように思えたのは気のせい?
次の瞬間には、閉じた瞼の下で小さく揺れる睫毛が見えるだけ。でも、乱れる脈動は止められない。
退屈な授業は頭の外に飛び出して、終業のベルが鳴るまで、目に映る現在に夢中だった(相変わらず浅野くんは、隣から何かを囁いていたけど、言葉の意味も聞き取れない位に)。






「………さ。一護の奴…………」
「え?」

浅野くんの台詞、たった一部分に反応して顔を動かしたら、泣きそうな笑顔。

「ど、どしたの浅野くん」
「良かった―…水色も一護もなまえさんも全然反応してくれないから、俺の存在消えちゃったのかと思った。声も聞こえてないし、姿も見えてないんじゃ…って」

手に持ったタコさんウインナーは、浅野くんが喋るのにあわせてゆらゆら揺れている。
昼休みの教室は楽しげにざわめいて、傍にいる浅野くんの存在がより曖昧にぼやける(悪気は全くない)。

「相変わらず大袈裟だなあ、浅野さんは」
「み水色ぉ―…浅野さんって言わないでぇぇ」
「うっせーぞ、啓吾」

心底眠そうにあくびをしながら、黒崎くんは低い声。
いつも成績の良い彼だ、遅くまで勉強でもしているんだろうか。

「だだだって水色がーー」
「別に呼び方なんてどっちでもイイだろ」
「でも、なんか水色のは距離を感じるんだよねー。なあ、一護にはそう聞こえない?」
 なまえさんもそう思うよねぇ?俺、ビミョーに仲間ハズレ的な……

ここは返事したほうが良いんだろうか。
窓の外には、さっきと打って変わったあたたかい陽射し。
なんて答えようかなと考えながら、ゆっくり流れて行く雲を目で追う。



「あ、あれ?もしかして、なまえさん…無視?なんだよ皆」
 一護は怒ってるし、なまえさんは冷たいし、水色は他人行儀だし。俺ってそんな扱い?

別に無視なんてしたつもりはないんだけど、こうやって微妙に拗ねモードの浅野くんは、結構めんどくさい。
どうしようかな、謝っておいたほうが無難だよね。悪いことはしてないけど。

渋々外から教室の中へ視線を戻したら、小島くんの笑顔と静かな声。

「ひとの所為にしない方が良いですよ、浅 野 さ ん」
「だからぁぁぁ…浅野さんって言わないでぇぇぇ――!!」

結局、浅野くんの情けない声を聞き流して、隣で再びしかめっつらをしている黒崎くんを盗み見る。

あ…また、目が合った。

「黒崎くん」
「ん?」
「随分眠そうだね」
「ああ、昨日はほとんど眠れなかったからな」

大きなあくびをひとつ。
顔の前に翳した掌は、やけに大きくて。
すらりと伸びた長い指が、綺麗なのに女のそれとは明らかに違う事を意識してしまう。

とくん

その途端、胸が再び跳ね上がる。

「でも、そんな理由で学校休む訳には行かねぇし」
「ただでさえ出席日数ギリギリだから?」




(俺の言いてぇこと、分かったろ?)
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