rock me baby tonight
「おう、久しぶりじゃねぇか」
一緒に歩いていた夏の公園で、シカマルが珍しくいつもより華やいだ声をあげる。
何事だろうと見上げた先には、暑い季節だというのに口許まで覆うハイネックにサングラス。一言で言えば怪しげな男性が立っていた。
「そうだな。何故なら、社会人になれば互いに忙しくなるものだからだ」
「相変わらず、その面倒くせえ喋り方…シノも変わんねぇな」
「シカマルも変わらない。何故なら人はそんなに簡単に変わるものではないからだ」
声を上げて笑ってるシカマルなんて珍しい。
シノさん、と呼ばれた彼も心なしか少し微笑んで見えた(もっとも彼の場合は、殆ど顔が見えなかったんだけれど)。
「で…」
「あ。わりぃ…紹介するわ。こいつ、俺の彼女」
「はじめまして」
「こっちが油女シノ、昔のバンド仲間な」
「じゃあ、犬塚さんと一緒にやってた」
「そうだ」
◆
という訳で(どういう訳?)何故か私たちは今、カラオケボックスにいる。
「シカマルのやつ、こう見えてめちゃくちゃ歌上手えんだぜ」
「それは俺も否定しない。何故ならあの頃から女の子に…――」
「あーもう、めんどくせー。歌やあイイんだろ?」
いつの間にか現れた犬塚さんも交えて、賑やかな場が広がっている。
シカマルも口ぶりと違って、楽しそう。つい、微笑みが漏れた。
「でもさー、マジでお前…彼女に歌聴かせたことねぇの?勿体ねぇ」
「んだよ、それ?」
「俺がシカちゃん位上手かったら、絶対一番に武器にすんのになー」
「俺も異性には有効だと思う。何故なら女性とは甘い声に弱……」
「るせぇ。俺はキバとはちげぇんだっつうの」
へぇ…そんなに上手いんだ?
二人の口調からして、それは嘘ではないらしい。
シカマルの歌…か。
「んで、何聴きてぇのー?やっぱ、最初のリクエストは彼女からだよなー」
「俺の歌う曲、勝手に仕切んなって」
「遠慮は良くない。彼女というモノは彼氏に我が儘を言うのが当然だ」
「ったく……」
頭をがしがしと掻きながらシカマルが顔を近付けて来て。
低く柔らかい声が、耳元で響く。
(あいつらもああ言ってるし、何かリクエストしろよ)
(いいの?)
(ああ。何聴きてぇ?)
囁かれる声は、まるでピロートークのそれのように甘やかで。
耳たぶにかかる吐息に肩が竦む。
「んー…じゃあ、ミスチル」
「了解」
きゅっと口の端を持ち上げる不敵な笑顔に、不覚にもドキドキした。
やがてイントロのメロディが流れ始めて、マイクを手にしたシカマルの表情が少しだけ変わる。
ヒュー、と犬塚さんの鳴らす口笛に、膨らんだ期待で鼓動が早まって。
いつもより少し掠れた甘い声。
聴き惚れてしまいそうなビブラート。
真剣な横顔…
なめらかに紡がれる第一小節だけで
目眩がしそうになった――
drawn by asami
rock me baby tonight
(惚れ直した?)
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2009.01.08
シカチル妄想ふたたび。イメージはひそかにエソラだったり