37℃

「ほら、分かる?」

アオバが私の中に居る。


小さく漏れた君の言葉に、反応したのは胸のずっと奥のほう。
やわらかい微笑みに満たされる気持ちのたった一部分に、静かに沸き起こる加虐心は、きっと愛情が形を変えたものなんだろうけど。

 しどけないその肢体をフィックスしてしまいたい、そんな愚かな欲に今日くらいは溺れても良い、と思えた。
 だって今日は恋人達が愛を囁く日。
 セント・ヴァレンティヌスなんて人は知らないけど、そういうものは利用する主義だ(もちろん都合に応じて無視もするけど)。


 情事後、鼻の頭に乗せていた眼鏡をそっと外して、眉を顰めた君に顔を近付ける。
 唇が触れそうな距離、歪む君の顔には快楽の余韻がうっすらと浮かんでいる。



「何?まだ欲しい」

 擦り寄せられた頬に、唇を押し当てて。
 とろりと零れる液体を掬い上げる。
 ゆっくりと差し入れた指に、熱い粘膜が絡み付く。

 眉間の皺を深くした顔は、やっぱりひどく厭らしい。

 残滓を掻き出すように、指を折り曲げる。
 うるんだ瞳に比例して、君の体温が上がる。

 そう言えば、受精しやすい体温ってのは何度くらいだったかな。

 歪んだ唇を塞ぎながら、頭に描いた未来のビジョン。
 君を俺の元に留める方法は、案外単純なものだよね。

 かんたんに膝の力を抜いた君を見据えたまま、ゆっくりと身体を沈めた。



37.0
(もっと俺をいっぱい注がせて)
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