セブンティーン

 教室の中、悪ガキのようにじゃれている犬塚くんは、名前の通り元気な犬みたい。さらさらの髪が、陽に透けて綺麗だ。

「ったく、勘違いもほどほどにしろっつうの」
「シカちゃん、バッカじゃねぇの?」
「……バカはお前だろうが」

 首に手を回されて、迷惑そうに顔を顰めてる奈良くんが羨ましくて仕方無い。

 そんなに、この世の終わりみたいな顔して嫌がるんだったら、その立場…私に代わってくれないかな。バカって言われてもいいから。

 机の上、肘をついてぼんやりしていたら、とびっきりの笑顔の犬塚君と目が合う。

 !!!

 視線が絡んだ瞬間に、八重歯を見せながらニッと歪めた口元は、さっきよりもっと笑顔で。
 見つめていたのを悟られたくなくて、するりと視線を外した。



「ほらな?」
「だから、お前の勘違いだって」
「んな訳ねえっつの。シカちゃん、見ててみ?」
「止めとけよ」

 何の話だか分からないけれど、聴覚は全て2人の会話に釘付け。軽く目を閉じて、ハスキーな犬塚君の声に聞き惚れていたら、急に声が聞こえなくなった。

 ぱたぱたと、薄っぺらい上履きの近付く音に気を取られる。

 はあー…

 次に聞こえてきたのは多分、奈良くんのため息。

 それから、教室の喧噪が耳の中に入り込んできた(バレンタインを控えて、やけにいつもより騒がしい)。

 授業まで数分、ちょっと寝よう。
 閉じた眼はそのままに、うつ伏せる。この位のざわめきなら、うたた寝には全く支障がない。
 組んでいた脚をほどいて、姿勢を変えたのと同時に、ビックリする位近くで声が響いて。

「なあ、なあ。ちょっといい?」

 大好きな周波数に、鼓膜を直撃された瞬間、心臓が止まるかと思った。

「ん?」

 ろくな返事もかえせずに片眼で見上げると、いつになく真面目な表情が私を見下ろしていて。鋭い目が、細く緩むさまに見惚れる。
 犬塚くん、こんな顔もするんだ…


「お前さ、」



(どんだけ俺のこと好きなんだよ)

 全部バレてるし。
 チョコとか言葉とかの分かり易い尺度じゃ測れない位、って言ったら重たいかな?
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