いじわる

「…っふ、」

 唇がふるふると震えて、眉間はぴくりとシワを刻む。噛み締めた口はいびつに歪んで、眼球に潤いの膜が張る。
 腕にしがみつく白い指先は、苦しげに反って。色素の薄い顔のなかで、少しずつ赤く充血していく双眸だけが彩度を保っている。

「…シカマル」

 ふるえる声で名前を呼ばれるのは、かなりやばい。クる。

「どうした?」

 名前を呼ぶことで何を欲しているのか、分かってて聞くなんて意地がわりぃけど。人一倍羞恥心のつよいお前だからこそ、有効な問いになる。

「なん でも、な…い」

 強がる台詞に薄く笑う。いびつに口の端が歪むのは、お前が可愛くて仕方ないから。

「へえー…」

 擦りあわされる膝にも、不自然にしなる腰にも気付いている。ねだるように突き出された胸が、扇情的でないと言えば嘘になる。
 っ、は。甘くかすれた声は、切迫つまった彼女の合図。

「も…無理」

 張力の限界を迎えた雫が弾ける寸前、くしゃりと歪む彼女の顔は何よりも綺麗で。息を飲む。だから、泣かせたくなる。

 泣きはじめる直前の彼女の顔が好きで。何よりも好きで。愛おしくてたまらなくて。ただ、それを見たかった。


いじわる
追い詰められた姿にソソられる
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