がまん

 リアリストで、冷めた女だってことは知っていた。甘えるのが苦手と言うよりは、きっとその種の思考回路が元からないのだ。

 媚びたり、寄り掛かったりしない彼女。その潔さは嫌いじゃねえけど、こんなときはまた別じゃねえの。

 …っ。噛み締められて消える声。眉根を寄せる切ない顔は、うるさく喘がれるよりずっとソソる。耐えているものから解放したくて、柄にもなく必死になる。

「ゲン…マ」

 のけ反る姿勢であらわになる白い首筋。差し出した腕で、掴もうとしているのが、俺の心であればいいのに。


 ふたりの人間の間で、熱量の絶対値は決まっているのか。いつもなら、相手の熱が上がれば内が冷えていく。熱の出入りを一定に保つように。行きずりの女ならなおさらそうだった。

 なのにお前相手だと、その理論が簡単に覆される。それがお前の狙いなら、完璧にはめられているというのに、悔しさを感じる余裕もない。微かな熱の上昇を読みとれば、一緒に俺の内側も熱をあげている。どこが限界なのか、わからないほどに。

「ったく、我慢すんなっつってんだろうが」
「して な…い」

 見抜かれたら負けだと思っているらしい。もれそうな息を鼻から逃がそうとする所作が、火をつける。お前だって感じてるくせに。

 ぐい、膝裏を押して細い足首に手を添える。目の前にさらされたつま先は、いびつに歪んでいる。これって、そういうことなんじゃねえの。

 瞳を合わせたまま、ぬる、足の指を口に含む。つけ根に舌を這わせ、くちゅりと吸いあげる。

「そ…れ、反則」
「知らね…」
「…ゲン、マ」

 弱ぇとわかっててやってんだから、反則も何もねえって。ほら、声が甘さを増した。

 ん、あ。細くこぼれ始めた声。くるぶしに歯を立てながら、反応をさぐる。上気した肌、潤んだ瞳。視線が合えば、恥ずかしそうに反らされる。そんな仕草が可愛い。

 もっと近くで見たくて、するり、はい上がる。怯えるように竦んだ肩をやわらかく押さえつけたら、至近距離で視線が絡んで。自然に口の端が持ち上がる。

 しっとりと汗ばんだ肌は、嘘がつけない。噛み締めすぎた唇を塞ぎ、ふるえる身体を腕に閉じ込めて。

「まだ我慢すんの?」

 耳元で低く囁けば、あまい吐息。分かってて聞かないで、と睨む目蓋にキスをして。鼓膜に名前を注ぎ込んだら、背中が大きくしなった。


がまん
つうか、我慢できないのは俺。
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