おかえり
長期で里を離れる任務は、いつも自分にとって、有り難いものだとゲンマは思う。それを口にすれば皆、不思議な顔をするけれど。ずるずると長引くことはあっても、拘束時間がのびるだけで比較的難易度の低いものが多いから、というのも理由のひとつだ。でも、それよりももっと身に染みるのは別の理由で。浅い快楽に付き物の煩わしさが、一気に解消される爽快感を想像してみればいい。
「ゲンマは贅沢なんだよ」
さも羨ましげなライドウの言葉に、分かってねえなとため息が漏れる。相手がいればより快楽がデカくなる、人間をそんなカラダに作った神様は、余程の悪戯好きとしか思えない。行きずりの女だろうが、心を割かずに適当に抱こうが、繋がっている間は同じように気持ちいいんだから。
「勝手に寄って来られて、騒がれる身にもなれ」
「でも羨ましい」
遠い目の彼が見つめる方向には、里の大門。オレンジ色の陽光に、やわらかそうな髪が染まる。厳密に言えば、誰でも一緒っつうわけでもねえけどな。頭に浮かぶ人影は、どこにも見えなかった。
「ったく、会いたかったとか言えねえの」
「会えると思ってたから」
報告を済ませ、久々の待機所へ向かえば、いつもと変わらない彼女の顔。一応はトクベツな間柄だと思ってるんだが、それは自分の思い込みなんじゃないか、と普通のオトコなら不安になりそうな態度。およそ感情の滲まない台詞は、清々しい。
まあな。俺もそう思ってたけど。そっけないのは素直になれない、とかじゃなくて。彼女の言葉はいつも本音なんだ。そういうところがきっと、俺たちは似ている。長期で里をあけるたびに醜いほど泣いて縋る女たちよりも、ずっと気持ちが伝わってくるように思えるのは気のせいじゃない。
「帰ったら?疲れてるでしょう」
「まあ、な」
本当は、里にいて引っ切りなしに短い任務をこなしているよりラクなのに。普段なら、日中マンセルでBランクのあと、寝ずに単独任務なんてザラだし。仮眠だけで急に駆り出されるのも日常茶飯事。だからきっと、疲れているとしたら里内に待機していた彼女の方だ。んな弱音は一度も聞いたことがないけど。
「…ゲン、マ」
「ん?」
不意に呼ばれた名前ひとつで、背筋がぞく、と軋んで。なんでそんな声。動揺を隠して、小さな相槌をうつ裏では、とくとくと脈拍があがっている。
ごまかすように千本を揺らせば、見上げてくる瞳。ふわり、やわらかく崩れた表情に、じわじわとぬるい衝動が這い上がった。
おかえりただいま、のかわりに重ねる唇