その向こう側
ここはどこだろう。そう言いたげに彼女の視線が泳ぐ。寝起きの身体をいきなりそんな風に起こしたら、頭に響くんじゃねえの。
「痛ッ――」
案の定頭を抱えた彼女に、くつくつと笑いながら冷えたミネラルウォーターを差し出した。
こくり、嚥下しながら動く喉元に見惚れていたら、いつもより少し嗄れた声が俺の名を呼ぶ。どくり、胸が跳ねる。
「シカマル…の部屋、だよね。ここ」
「そう。覚えてねえんすか、昨日の事」
酔って俺に絡み付いて離れないあんたを、抱えるようにここへ運び込んだのはまだ数時間前なのに。
「……ごめんね、」
「全然…っすか」
「うん。まったく」
申し訳なさそうな彼女の台詞を、俺はどうとらえればいいだろう。
覚えて、ねえのか。
酔って潤んだ目で俺を見上げたことも、首筋に両手を絡めて何かを強請ったことも、眠ってからも繋いだ手を離そうとしなかった事も。
「まったく……」
こういうのは残念な方がいい思い出になる。そういうモンだ。
そういうモンだと自分に言い聞かせながらも、やっぱりため息がこぼれた。
はぁー………。
だとしたら。昨夜のオレ、バカみてえ。理性を総動員して、我慢する必要なんてなかったんじゃねえの。もしかして。
「だいぶ酷かった?」
「んなことねえっすよ」
「でも、相当頭痛い」
「完璧、二日酔いってヤツっすね」
「私のバカ」
残念なトコで終わったから、こうして今、話が出来るんだ。行く所まで行ってしまったら、後で残念になるばかりだから。
でも、生殺しってのはああいうこと。それでも踏み出していたら、どうなったんだろう。
「何か変な事とか、言ってなかった?」
「さあ」
「もったいぶらないで、教えて」
「んなに、知りてえっすか」
「知り、たい…かな」
じゃあ。
ベッドの縁に腰掛けた身体を、そっとスプリングに沈めて。両手を押さえたまま見下ろせば、昨日の晩よりもっと彼女の頬は赤く染まった。
その向こう側これから続き、やる?